あなたに似合う色
霞は、私に似合うものを私より知っている。
大学のころから、服を買うたび写真を送り、「それは顔が大きく見える」「その色は頑張ってる感じがする」と正直に教えてくれた。傷つくこともあったけれど、他人はそこまで言ってくれない。婚活を始めてからは、会う相手ごとに服を選んでくれた。
初対面の日、霞は必ず私の口紅を一度ティッシュで押さえる。
「七瀬は、そのままだと強すぎるから」
それから靴の中敷きを抜く。背が高い女を嫌う男性は多いという。少し歩きにくくても、出会いのためなら仕方ない。
霞自身は鮮やかな赤を着て、高い靴で隣に立つ。待ち合わせ場所まで付き添い、相手が来ると「この子、緊張すると変なこと言うけど優しいから」と紹介して帰る。なぜか二度目につながらないたび、彼女は夜通し慰めてくれた。相手からは決まって「紹介してくれた友人にもお礼を伝えて」とだけ届き、私への感想は一行もなかった。
「七瀬は素材がいいのに、見せ方で損してる」
私はその言葉を信じた。だから、霞の婚約パーティーへ呼ばれたときも、指定された灰色のワンピースを着た。招待状には〈華やかな色で〉とあったが、主役を立てるのが親友だと思った。
会場で、霞の婚約者が私を見て驚いた。
「写真と雰囲気が違いますね」
霞はすぐ笑った。
「加工してるから。七瀬、昔から写りだけはいいの」
写真とは、半年前に霞が紹介してくれた男性へ送ったプロフィールだという。彼は当日現れず、そのまま連絡が途絶えた。霞の婚約者のスマートフォンには、私が送ったことになっているメッセージが残っていた。
〈霞より私のほうが、あなたに似合うと思う〉
私は声も出なかった。霞は私の肩を抱き、皆に聞こえるよう言った。
「大丈夫。七瀬は、悪気なく人のものを欲しがるところがあるだけ」
その夜、帰宅して靴を脱ぐと、抜かれたはずの中敷きが鞄の底に入っていた。裏には油性ペンで日付が並び、どれも私の見合いが終わった日だった。
いちばん新しい日付だけが、霞の結婚式当日になっていた。