しおりは半分こ

彼が使っていたしおりは、映画館の古い半券だった。

図書室で隣の席になるたび、紙の端から同じ日付が見えた。三年前の八月。上映作品の題名は擦れて読めない。

「それ、まだ使ってるんだ」

初めて話しかけたのは、静けさに負けたからだった。

彼はしおりを指で押さえた。

「姉と最後に見た映画の券」

姉は遠くの大学へ行っただけで、亡くなったわけではない。それでも、家を出てからほとんど帰らず、連絡も減ったらしい。けんかをしたまま見送ったので、楽しかった日の証拠を捨てられないのだという。

「半券って、半分しかないのに証拠になる?」

「もう半分は姉が持ってる」

僕は少し驚いた。切り離された二枚が、別々の町で同じ本に挟まっているかもしれない。

その日から、彼とは図書室でだけ話すようになった。教室では席が遠く、部活も違う。静かな場所では、家族のことや進路のことが不思議と話せた。

冬、彼は姉へ手紙を書くと言った。

「何を書けばいい」

「映画の感想」

「三年前だぞ」

「覚えてるところだけ」

彼はノートを一枚破り、長い間鉛筆を動かした。最後まで書くと、半券を本から抜いた。

「これも送る」

「なくなるよ」

「向こうの半分と合わせてもらう」

翌週、彼は図書室へ来なかった。机の上には借りたままの本だけがあり、しおりの代わりに白い紙が挟まっていた。姉から返事が来て、週末に会いに行くと書かれていた。

月曜、彼は新しいしおりを持ってきた。

二枚の半券を裏から透明テープでつないだものだった。切り口はぴたりと合わず、少しだけずれている。

「姉が持ってたの、別の半券だった」

「同じ映画じゃなかった?」

「同じ映画。同じ回。でも、姉は自分のをなくして、別の日のをずっと僕の半分だと思ってた」

僕らは声を殺して笑った。

「じゃあ、これは偽物?」

「本物の思い違い」

彼はつないだ券を真ん中でまた切った。今度は縦に、題名が両方へ残るように。

片方を僕へ差し出した。

「なんで僕?」

「話を最後まで読んだ人だから」

僕はそれを借りていた本へ挟んだ。

春にクラスが離れ、図書室で会う回数も減った。それでも同じ本を見つけると、しおりの半分を思い出した。

離れていても、一つの記憶を同じ形で持つ必要はない。少しずれていても、題名が残っていれば、続きを話せる。