まだ言わないで

友人の美月が妊娠したことを、私は夫より先に知った。

そう言うと皆は驚くけれど、それだけ頼られているということだ。

美月から届いた検査薬の写真は、すぐ二か所へ保存した。消された時に困るからだ。翌日には淡い青のベビー服も買った。性別はまだ分からないのに、と美月は笑わなかった。

「安定期まで、誰にも言わないで」

私は約束した。ただし、美月の母親は「誰か」ではないし、同じ部署の上司も休職に備える必要がある。夫には、驚かせたいと言う美月の希望どおり、まだ知らせなかった。

母親には栄養の注意点まで添え、上司には繁忙期の担当替えを提案した。美月は翌朝、「どうして知ってる人がいるの」と震えていた。偶然広まったことにしておいた。私が話したと知れば、必要以上に自分を責めるからだ。

一か月後、学生時代の仲良しグループが、美月の家で集まっていた。私にだけ連絡はなかった。以前なら玄関の暗証番号を私が決め、来客の名簿も作ったのに、その日は番号まで変わっていた。

窓辺には黄色い花と、性別を選ばない白い贈り物が並んでいた。全員が同じ紙袋を持ち、私の知らない合図でカーテンを閉めた。私は青を選んだ自分の勘の良さを思い、インターホンを押した。

出てきた美月は、ドアチェーンを外さなかった。

「どうして母に言ったの」

「心配してたから」

「会社の匿名掲示板に書いたのも?」

「変な噂になる前に、正しい情報を置いただけ」

美月の顔がゆがんだ。前の妊娠を失った時も、私は周囲へ事情を説明してあげた。本人が話せないなら、親友が代わるしかない。

背後の友人たちは、美月の新しい連絡先を私に教えないと決めたという。出産予定日も病院も、もう共有しない。私を排除して、美月を孤独にするつもりらしい。

ドアが閉じる直前、美月は言った。

「私の人生を、あなたの速報にしないで」

帰宅して、保存してある産院の写真を開いた。

母親宛ての送信予約は、安定期に入る一日前のままだった。