よりを戻す経路

 雨の高速道路を走りながら、波佐間岳は車載AI「ミチルート」に話しかけた。

「彼女と、よりを戻したい」

『直前の寄り道を取り消します』

「寄り道じゃない。半年付き合って、昨日別れた」

『昨日の走行履歴を表示します』

「恋愛の履歴だよ。僕が悪かった。元の関係に戻りたいんだ」

『この先、Uターンは禁止されています』

「道路の話から離れてくれない?」

『運転中の車線逸脱は危険です』

「そうじゃなくて、心が離れたの」

『現在地から相手の登録住所まで十二・四キロです』

「心の距離は?」

『測定不能です。料金所は二つあります』

「謝るのに近道はないかな」

『有料道路を使用すると七分短縮できます』

「金で解決するみたいに言うな」

『現金、またはETCが利用できます』

「彼女は別れ際に、『もう同じ道は走れない』って言った」

『前方に通行止めはありません』

「比喩だよ。別の道なら、また一緒に行けるかな」

『目的地が同じなら、一般道と高速道路の二経路があります』

「少し希望が出てきた」

『渋滞は増加しています』

「すぐ現実を足すな」

 サービスエリアへ入る直前、岳は分岐を見落とした。

『経路を再検索します』

「人生も再検索できればいいのに」

『履歴の削除は可能ですが、過去の走行は変更できません』

「今日いちばん人間らしい返事だな」

『音声認識に失敗しました』

 岳はため息をついた。助手席には、昨日渡せなかった菓子箱がある。

「どう言えば、もう一度やり直せると思う?」

『目的地を「やり直し」に設定できません』

「じゃあ新しい目的地でいい。彼女と話せる場所へ」

『候補を検索。ファミリーレストラン、展望台、自動車修理工場』

「なぜ修理工場?」

『「関係を修復したい」という発話履歴から推奨しました』

「人間関係は板金できない」

『傷の深さによります』

「急にうまいこと言うな」

 ミチルートは次の出口を指示した。岳は半ば投げやりに従い、小さな修理工場へ着いた。シャッターの前で、別れた彼女が作業着姿のまま工具を片づけていた。彼女の実家が営む店だったことを、岳はすっかり忘れていた。

「何しに来たの」

「修理を……いや、話をしに」

「どこが壊れた?」

「僕の言い方と、たぶん性格」

 彼女は菓子箱を受け取り、車のへこんだバンパーを見た。

「両方、見積もりからね」

『目的地に到着しました』

 よりは戻らなかったが、予約は取れた。