アイスの木の棒
部活を辞めた日、後輩が校門前のコンビニまで追いかけてきた。
「最後に一本だけ」
差し出されたのは、二本に割れるソーダ味のアイスだった。
私はバレー部の主将だった。最後の大会を前に膝を痛め、医者から練習を止められた。ベンチに残ることもできたが、コートを見ているだけなのが耐えられず、退部届を出した。
「いらない」
「もう買いました」
「一人で食べれば」
「二本くっついてるから無理です」
強引な理屈だった。
校門脇の植え込みに座り、袋の上からアイスを割った。きれいには分かれず、私のほうが短くなった。
「主将だから短いほう」
「何その決まり」
「引退したから、もう主将じゃないけど」
後輩は長いほうをかじった。
私は溶ける青い滴を見ていた。
「みんな、怒ってる?」
「怒ってます」
「そっか」
「勝手にいなくなったから」
風でグラウンドの掛け声が聞こえた。私が考えた練習メニューを、今は副主将が回しているはずだった。
後輩が木の棒を指で回した。
「試合、来ないんですか」
「行かない」
「じゃあ、私がサーブ失敗しても知らないんですね」
「入れればいい」
「先輩が見てないと、入る気しません」
思わず笑った。
「私をお守りにするな」
「じゃあ、タオル係でいいです」
「マネージャーいるでしょ」
「先輩の冷たい顔を見る係が必要です」
アイスはどんどん溶けた。食べるのをやめれば手が汚れる。仕方なく口へ運ぶ。
「辞めたの、コートに立てない自分を見られたくないからですか」
後輩の声が急に真剣になった。
私は答えられなかった。
「短いほうでも、なくなるまで時間かかるんですね」
後輩は自分の棒を見せた。先端に青い氷が少し残っている。
「試合も同じです。出られない人の時間も、ちゃんと試合です」
生意気だった。
私は食べ終えた棒を折ろうとした。後輩が取り上げ、二本を並べた。
「大会の日、返します」
「ゴミを?」
「勝ったら記念品」
結局、最後の大会へ行った。
私はベンチの外で、冷たいタオルを渡した。後輩は最初のサーブをネットにかけたが、二本目を決めた。
試合には負けた。
帰りのバスで、後輩が木の棒を二本差し出した。
「記念品、負けても有効です」
私は短いほうを受け取った。
それは退部届より軽く、引退という言葉よりずっと重かった。