アンチを抱いて落ちる
《堂前レオを突き落とした疑惑、まだ説明してないよな》
《救助するふりして証拠隠滅か?》
《瀬名岳を現場に入れるな。次は死人が出る》
縦穴都市の配信は、天地がなかった。
画面の中央で、堂前レオが千メートル下へ落ちている。命綱は切れ、転移封鎖が作動し、救助ドローンは風圧に弾かれていた。
穴の縁に立った瀬名岳は、炎上の相手であるレオを見下ろす。上昇気流は鉄柵を鳴らし、観測員でさえ腹ばいにならなければ近づけない。岳の安全索は、危険行為防止システムによって自動ロックされていた。
三日前、二人が揉み合う映像だけが拡散された。レオ本人が沈黙したため、岳の登録チームは解散寸前まで追い込まれている。直後に岳がレオを安全側へ投げた部分は切られていた。
「今度は最後まで映せ」
岳はカメラを固定し、一歩だけ前へ出た。
《飛び降りた!?》
《二人とも落下中、速度毎秒百二十》
《岳、飛行も転移も持ってないぞ》
《いや固有技能欄が開いた――《落下編集》?》
岳は落ちながら、指を一度鳴らした。
世界から一枚の映像が抜け落ちたように、二人の姿が消える。
次の瞬間、岳とレオは穴の縁から上へ飛び出した。落下の向きだけが反転し、二人分の速度が噴水のような上昇へ変わっていた。
岳は空中でレオの襟をつかみ、観測台へ背中から落ちる。衝撃を受けたのは岳だけ。レオは彼の胸の上で目を開けた。
《速度ベクトル反転を一回だけ挿入したのか》
《検証:落下編集の対象は“触れている他者を含む一場面”》
《前の映像も解析された。岳は突き落としてない、落下方向を横へ変えてた》
《レオの命綱を切ったの、別のワイヤー罠だぞ》
レオは息を整え、岳の胸倉をつかんだ。
「なんで俺を助けた」
「嫌いなやつを見殺しにしたら、切り抜きのほうが正しくなるだろ」
岳は笑い、折れた自分の腕を庇いもしなかった。
《その返し、強すぎる》
《救助成功。レオ軽傷、岳右腕骨折》
《謝罪する。疑惑じゃなくて二度目の救命だった》
《同接、まだ上がるぞ》
画面右上の数字が桁を一つ増やした。
【同時視聴者数:1,000,000人】