オーブン番号七

シェアキッチンの七番オーブンは、十八時から私が予約していた。

ところが仕事帰りに着くと、同じ時間の札を首から下げた女性が、台の上に小麦粉を広げていた。予約アプリにも「折登小春」と「志岐菜月」の名が並んでいる。

私は明日の社内販売会に出すレモンケーキを焼く予定だった。志岐さんは、近所の子ども食堂へ届けるクッキーを作るという。管理人の海老塚さんと、清掃担当の柊原さんを加え、誰が操作したのか確認することになった。

手掛かりは三つだった。

志岐さんの材料箱には、小麦粉ではなく米粉。箱の蓋には、先月私が寄付したケーキにも貼った子ども食堂の丸いシール。そして七番オーブンの予熱設定が、私がいつも使う百七十度になっていた。

「志岐さん、二つとも予約したのはあなたですね」

彼女は木べらを握ったまま、うなずいた。

先月の販売会で、私は余ったケーキを子ども食堂に寄付した。そのとき一人だけ食べられず、窓の外から見ていた子がいた。小麦と卵にアレルギーがあると知った志岐さんは、私に米粉のお菓子を教えたかった。でも「寄付した人に作り直してと言うみたいで失礼」と言い出せなかった。

志岐さんは海老塚さんに事情を話し、私の予約を消さず、同じ枠へ自分の名を手作業で加えてもらった。別のオーブンを取れば話す機会を逃すと思ったのだという。

「勝手に予約を重ねて、ごめんなさい。今日、一緒になったら話せるかと思って」

予熱を百七十度にしたのは、私のレシピを写真で見て覚えていたからだった。

管理人の海老塚さんは、隣の六番が空いたと知らせてくれた。けれど私は、二台に分かれず、七番の天板を半分ずつ使うことにした。

志岐さんの米粉クッキーは、少しひび割れた星の形。私のレモンケーキは卵を使わない配合に変え、いつもより淡い色になった。

焼き上がりを待つ間、柊原さんが余ったレモンで紅茶をいれた。

最初の一枚を割ると、星はきれいに二つになった。

「明日は、この半分をあの子に」

志岐さんが言う。私は香ばしい欠片を口に入れた。

「半分じゃなく、一枚どうぞ」