ガラスの中の撮影班

自然番組の編集最終日、笹目冬花に監督から一件だけ修正が来た。

「希少なカワセミが魚をくわえる場面、ガラスに撮影班が映っている。消せないか」

再撮影はできない。三週間待って一度だけ撮れた瞬間だった。映り込みは三人分、鳥のすぐ横で動いている。制作助手は「画面を拡大して端を切りましょう」と言ったが、それでは魚を追う嘴まで欠ける。

冬花は修正作業を始めず、まず映像を何度も往復した。鳥が水面から上がるとき、青い翼が画面を大きく横切る。その一瞬だけ、ガラスのほぼ全面が隠れる。映り込みは翼の前後で位置が少し変わっていた。

撮影班の一人がかぶる赤い帽子は、とくに目についた。静止した森を貼ればすぐ隠せるが、水面の反射まで止まり、そこだけ写真のようになる。冬花は人影を消すことより、風と水が動き続けることを優先した。消した跡が自然より静かなら、視聴者は理由が分からなくても違和感を覚える。

彼女は翼が通過する直前のきれいなガラスを複製し、マスクで撮影班の部分だけを覆った。トラッキングは全編にかけず、翼が来るまでの約一秒半だけ。翼の裏で処理を切り替え、通過後は別のきれいな面を使い、数個のキーフレームで位置を合わせた。

「全部自動で追わせないんですか」

助手が訊いた。

「鳥の嘴と人の肩が重なる。そこを機械に任せると、魚まで薄くなる」

再生すると、翼が一度だけ青い幕になった。幕が去ったあと、ガラスには森だけが映っている。鳥の動きも魚の光も残った。冬花は明るい画面と暗い画面の両方で確かめた。暗部を持ち上げても、赤い帽子は戻ってこなかった。

監督は黙って二回見てから、「撮影班が最初からいなかったみたいだ」と言った。

冬花は首を振った。

「いました。消えたように見える場所を、鳥が作ってくれただけです」

納品データの転送が始まった直後、監督の端末に新しい修正票が届いた。今度は、巣の近くに落ちた赤いペットボトルだった。冬花は翼のない場面を開き、少しだけ息を長く吐いた。