シャッター係の卒業
校門前の桜はまだ三分咲きで、写真にすると少し寂しかった。
「水無瀬、次こっち!」
榊原美緒里に呼ばれ、水無瀬景都はまた誰かのスマートフォンを受け取った。運動部、図書委員、二年のときの班。頼まれるたびに門柱を左右へ寄せ、逆光を避け、全員の顔が入るまで後ろへ下がる。
景都は写真部だった。入学式から行事のたび、誰かの笑顔を中央に置き、自分はフレームの外へ退いた。だから卒業の日も、撮る側にいるのが自然だった。胸の花飾りがなければ、在校生の記録係に見えたかもしれない。
「はい、もう一枚。今度は変な顔で」
笑い声と一緒にシャッターを切る。画面を確認して返す。その繰り返しで、胸の花飾りが少しずつ傾いた。
一度だけ、美緒里が「景都も入れば」と言った。けれど十人の端へ入ると門柱が切れたので、景都は自分から抜けた。美緒里は何か言いたげだったが、ほかのスマートフォンが差し出され、声は人混みに紛れた。
人が減り、校庭から吹奏楽部の片づける音だけが聞こえ始めたころ、美緒里が門の前に立った。
「最後、うちら」
差し出されたスマートフォンを、景都は受け取ろうとした。
「違う。景都も入るの」
「誰が撮るんだよ」
美緒里は通りかかった教頭を呼び止めた。教頭は老眼鏡を上げ、「この丸を押すんだな」と真剣な顔で構えた。
景都は美緒里の隣へ走った。立ち位置がわからず、半歩ぶん空ける。美緒里はその隙間を見て、景都の袖を引いた。
「近くないと、桜より小さくなる」
一枚目は教頭の指が写り、二枚目は景都が目を閉じ、三枚目で美緒里が笑いすぎて横を向いた。
「ちゃんとしたの、もう一枚」
景都が言うと、美緒里は画面を見たまま首を振った。
「これがいい。景都が撮らなかった写真だって、すぐわかるから」
その日、景都のアルバムに初めて、自分の卒業した顔が残った。
帰りの電車で美緒里から写真が届いた。三枚すべてと、教頭の指が半分を覆った失敗作まで添えられている。景都が〈これはいらないだろ〉と返すと、〈一番大事。撮る人も撮られる人も慣れてない感じがする〉と来た。
景都は失敗作を削除せず、「卒業」というフォルダの先頭に置いた。桜も校名もほとんど見えない。ただ、指の向こうで二人が同時に笑い始める瞬間だけが写っていた。