タイムカプセルの余白

「昔の約束なんて、時効でしょ」

小学校の同窓会でタイムカプセルを掘り出すことになったとき、花房琴乃は笑ってそう言った。

二十八歳になった自分たちが土の中から見つけたのは、色あせた作文や折れた鉛筆、未来の自分へ宛てた手紙。琴乃の封筒には、十二歳の字で《三十歳まで二人ともひとりだったら、朝陽のお嫁さんになる》と書かれていた。

隣で読んだ朽木朝陽は、困ったように笑った。

「二年早かったな」

「子どもの冗談だよ」

「そうだな」

十二歳の朝陽は、その手紙を読んだあと一日中機嫌がよかった。琴乃はそのことまで覚えているのに、大人の彼は何も覚えていない顔をした。

たったそれだけで、胸が痛んだ。琴乃はずっと、再会すれば何かが変わると思っていた。朝陽は高校から県外へ進み、連絡は誕生日の短いメッセージだけ。それでも彼が帰ってくると聞けば、髪を切る日まで選んだ。

同級生たちが校庭で写真を撮る間、琴乃は空の教室へ逃げた。窓際の机に、朝陽がもう一通の白い封筒を置く。

「それ、あなたの?」

「今から埋める分」

中には手紙ではなく、来月の舞台のチケットが二枚と、琴乃の住む街までの往復切符が入っていた。日付は土曜日。隣同士の席。

「三十歳まで待つのは長いから」

朝陽はそれだけ言って、油性ペンを差し出した。封筒の表には《次に開ける日》とあり、日付だけが空いている。

琴乃は来月の舞台の日を書き、その下へ《琴乃と朝陽》と並べた。名字ではなく名前を書いた瞬間、朝陽の肩からわずかに力が抜ける。

校庭へ戻る廊下で、朝陽が封筒を持つ琴乃の手に触れた。琴乃は避けず、そのまま指を絡める。子どものころのように走るためではなく、これからの速度を合わせるために。

「この封筒、また埋める?」

「埋めない。次の約束は、見えるところに置く」

琴乃は彼のスマホを借り、舞台の翌週にも予定を入れた。朝陽が承諾を押す。

昔の約束は時効だと思っていた。

けれど時効になったのは、三十歳まで待つという条件だけだった。余白に書き足した次の土曜日から、二人は思い出の相手ではなくなった。