バス停の生姜飴

夕方のバス停で、朱里は雨宿りをしていた。

屋根は狭く、風が吹くたび膝から下が濡れる。バスは事故渋滞で二十分遅れていた。

隣には買い物袋を提げた老女がいた。袋から長葱が一本突き出し、雨粒を受けている。

「冷えますね」と朱里が言うと、老女はコートのポケットを探り、包み紙の飴を一つ差し出した。

「生姜。辛いけど」

朱里は礼を言って口へ入れた。最初は砂糖の甘さ、それから舌の奥に熱が広がった。吐く息にも、生姜の香りが混じる。

二人はバスが来る方向を何度も見た。道路には赤いテールランプが長く続き、水面のような舗装に滲んでいる。

老女はこれから、離れて暮らす娘の家へ鍋を作りに行くという。娘が風邪を引いたらしい。

「その葱も?」

「嫌いなんだけどね。細く切れば食べるから」

朱里は自分の母を思い出した。風邪の日には林檎をすりおろし、生姜湯を作った。最近は電話をしても天気の話だけで切っている。

ようやくバスが来た。混んだ車内で二人は離れた席に座った。老女は降りるとき、窓越しに長葱を少し振った。

朱里は終点まで乗り、自宅近くの店で生姜を買った。鍋を作る予定はない。ただ、薄く切って蜂蜜に漬けた。

湯を注ぐと、台所の窓が白く曇った。母へ電話をかけ、「そっちも雨?」と訊く。いつもと同じ始まりだったが、今日は生姜湯の作り方を聞くまで切らなかった。

カップを両手で包む。外の雨は冷たいままでも、喉にはバス停でもらった小さな熱が残っていた。

母から教わった生姜湯は、朱里が作ったものよりずっと辛かった。蜂蜜を足しながら二人で電話越しに同じものを飲む。カップへ匙が当たる音まで聞こえた。母は庭の雨樋が詰まった話をし、朱里はバス停の老女と長葱の話をした。用事のない会話は三十分続いた。電話を切る頃、窓の雨粒は小さくなっていたが、朱里は残りを急いで飲まず、底に沈んだ生姜までゆっくりすくった。