フィルムの最後の二十四コマ

私は一九五六年製の恋愛映画である。

二十四コマで一秒を作り、九十分で男女を結ばせる。

昭和三十四年の夏、巡回映写隊のトラックに積まれ、山あいの集落へ運ばれた。

映写技師は野呂木宗一。

公民館の白壁へ私を映すため、発電機と格闘していた。

鞍岡美津枝は、村の洋裁店で働く娘だった。

上映初日、私の三巻目が切れたとき、宗一より先に映写室へ飛び込み、裁縫用の鋏を差し出した。

「布なら縫えます。映画も同じでしょう」

「縫ったら映らない」

「では、あなたが直してください」

それから美津枝は毎晩、上映を手伝った。

椅子を並べ、切符を売り、私の缶を磨いた。

宗一は昼、彼女に映写機を教えた。

光を絞る指、焦点を合わせる目、フィルムを傷つけない触れ方。

二人は私の同じ場面を何度も見た。

主人公が駅で「必ず戻る」と約束する場面である。

「この人、戻ると思う?」

美津枝が訊く。

「映画では戻る」

「現実では?」

「次の町の上映がある」

巡回隊は八月末に村を出る。

宗一は全国を回る仕事を捨てられず、美津枝は病気の父と幼い弟を残せなかった。

最後の上映の日、村人たちは結末を知っているのに、主人公たちの再会へ拍手した。

映写室では、美津枝と宗一が黙って私を巻き取っていた。

「来年も来る?」

「別の隊が来るかもしれない」

「宗一さんは?」

「分からない」

美津枝は笑った。

「では、待たないことにします」

「うん」

「待ってほしいと言わないんですね」

「言えば、君の一年を僕の帰り道にしてしまう」

私の最後の巻が終わる。

白壁から恋人たちが消え、ただの光になる。

宗一は美津枝へ口づけず、代わりに映写機の鍵を渡した。

「村で映画を続けたくなったら」

「あなたがいなくても?」

「いないからこそ」

翌朝、私は金属缶へ戻され、トラックに積まれた。

美津枝は道端で手を振っていた。

宗一は荷台から振り返らなかった。

見れば降りてしまうと思ったのだろう。

私はその後、百を超える町で上映された。

何度でも男女を再会させた。

けれど私が最もよく覚えている別れは、画面の中にはない。

最後の二十四コマが通り過ぎたあと、暗い映写室で二人が交わした、約束のない夏の終わりである。