ポケットから出てきた六月
ブレザーをクリーニングへ出す前に、ポケットを全部確認するよう母に言われた。
右からはレシート。左からは飴の包み紙。内ポケットの底から、四つ折りの紙が出てきた。
『六月になったら、答えを聞く』
十一月の日付と、同じクラスのあいつの字。
何の答えだったか思い出せない。
翌朝、教室は衣替えで白くなっていた。あいつは窓際で袖を二回折り、夏服の襟を気にしていた。
私は紙を机へ置いた。
「これ、何」
あいつは読んだ瞬間、耳まで赤くなった。
「覚えてないの?」
「だから聞いてる」
「ひどい」
十一月、文化祭の片づけ後。二人で軽音部の倉庫に残った。あいつは、春の新歓ライブで一緒に演奏してほしいと言ったらしい。私は受験勉強との両立を迷い、「六月まで待って」と答えた。
そこまで聞いて、少しだけ思い出した。
ただし、新歓はもう終わっている。
「期限、過ぎてる」
「春に聞いたら、六月って言ったじゃん」
「去年の六月とは言ってない」
「屁理屈」
あいつは机に額をつけた。私は紙を裏返した。白い面が、夏服のシャツと同じくらいまぶしい。
「今からでも、何かやる?」
「何を」
「文化祭。受験生バンド」
あいつが顔を上げた。
「答えは?」
私は紙の裏へ『やる』と書いた。
放課後、使われていない音楽室で、半年ぶりにギターケースを開いた。弦は少し錆び、指はコードを忘れていた。
あいつは笑わず、最初の音を待った。
窓の外では、運動部の夏服が校庭を横切っていた。私たちだけ、冬から持ち越した約束を今さら始める。
一曲目は、何度も止まった。
「六月って、便利だな」
あいつが言った。
「何が」
「遅れても、新しい季節みたいな顔ができる」
私はポケットからあの紙を出し、譜面台へ置いた。
文化祭当日、最初の曲の前に、あいつが客席へ向かって言った。
「半年遅れの返事をもらったので、始めます」
私は夏服の袖をまくり、最初のコードを鳴らした。
あの紙は今もギターケースの内側に貼ってある。答えを先延ばしにした跡ではなく、遅れても始められた日の入場券として。