一列ぶんの春

植物魔法使いメルティアの評価は、学院を出てからずっと最低だった。

花壇を頼めば薬草が混じり、芝生を命じれば食べられる野草が生える。貴族たちはそれを「美しくない」と笑い、最後には灰色の荒れ地を一枚与えて追い払った。

「好きなだけ雑草を育てるといい」

捨て台詞だけは、妙に親切だった。

農地へ着いた初日、メルティアは全体を見回さなかった。広さを数えれば心が折れる。だから荷紐を地面へ置き、まっすぐ十歩だけ伸ばした。

今日つくるのは、その一列だけ。

灰をかぶった土へ鍬を入れると、すぐ硬い根に当たった。抜いてみれば、学院で雑草扱いされた深根草だった。根の先には湿った黒土がまとわりついている。

「あなた、下の水を上げてくれていたのね」

メルティアは根を全部抜かなかった。畝になる幅だけ残して刈り、土をほぐす。そこへ蕪の種を、一粒ずつ指で置いた。

種袋の口を結ぶ頃には、爪の間まで黒くなっていた。学院では助手が道具を運び、土に触れるのは試験の数分だけだった。けれど種と種の間を指二本ぶん空ける作業は、不思議と退屈ではない。ひと粒置くたびに、ここだけは誰にも踏ませない場所が増えていく。最後の種へ土をかぶせたあと、メルティアは両手で畝の端を軽く叩き、風に飛ばされないよう整えた。

夕方までにできたのは、たった十歩の畝だった。

通りかかった村人が肩をすくめる。

「その土地は死んでる。何を植えても無駄だよ」

メルティアは答えず、掌を畝へ当てた。派手に芽吹かせる魔法ではない。種が怖がらず眠れる程度に、土の温度をほんの少し整えるだけだ。

すると灰の匂いの下から、雨上がりに似た湿った香りが立った。

小屋へ戻り、平たいパンを炙る。採ってきた深根草の若葉を刻み、塩と山羊乳で煮ると、青い香りのスープになった。

食卓には学院から届いた不合格通知がまだ入ったままの封筒があった。メルティアはそれを皿の下へ敷き、がたつきを止めた。

窓の外には、一列ぶんだけ整った土が見える。

春は国から許可されるものではない。十歩あれば、自分で始められるのだ。