一拍遅れの拍手
文化祭の体育館は、照明を落とすと別の学校みたいだった。
ステージでは軽音部が最後の曲を演奏していた。ボーカルは、私が一年の春から好きな人。ギターは、同じ人を好きだと昨日打ち明けてきた親友だった。
「負けても恨まないでね」
親友は笑って言った。
私は「そっちこそ」と返した。
何に勝ち、何に負けるのか、二人とも分かっていた。
曲の途中で、ボーカルが親友のほうを見た。ほんの一瞬だった。けれど、何度も見てきた私には分かった。歌詞ではなく、相手へ向ける目だった。
演奏が終わり、体育館が拍手で揺れた。
私は一拍遅れて手をたたいた。
アンコールの前、ボーカルがマイクを外し、ギターの耳元へ何か言った。親友は驚き、すぐに笑った。
昨日の告白に、今返事をもらったのだと思った。
照明がまぶしくなった。泣いていることは誰にも見えないはずだった。周囲の歓声に合わせ、私は大きく手を振った。
親友が客席の私を見つけた。
笑顔が止まった。
アンコールが始まる。彼女は何度もこちらを見た。私は親指を立てた。音に負けないくらい強く拍手した。
終演後、体育館の裏口で待っていると、親友が一人で来た。ギターを背負ったまま、私の前で立ち止まる。
「返事、もらった」
「見てた」
「ごめん」
「謝らない約束」
昨日、そう決めた。どちらが選ばれても謝らない。友情を負けた側への慰めにしない。
それでも親友の目から涙が落ちた。
「私が泣くの、違うよね」
「違わない」
私まで泣くと、二人で笑った。嬉しい人と悲しい人が同時に泣いているのは、おかしかった。
「おめでとう」
ようやく言えた。
親友は首を振った。
「今すぐ言わなくてよかったのに」
「今言わないと、ずっと言えない」
体育館の中から、片づけを急かす声がした。ボーカルも親友を探しているらしい。
私は背中を押した。
「行って」
親友は二歩進み、振り返った。
「明日、いつもの時間に駅?」
「うん」
「絶対?」
「絶対」
翌朝、親友は少し早く来た。私たちはいつもの電車に乗り、昨日のことを避けずに話した。
好きな人の話を聞くたび胸は痛んだ。それでも、一拍遅れた拍手を、いつまでも遅れたままにしたくなかった。
文化祭の録画には、客席の私はほとんど映っていない。
ただ最後の曲で、周りより一拍遅く手を上げる影がある。
私は今でも、その影を負けた人だとは思わない。