一斉に鳴った通知
逆井家の介護当番表には、絃葉の名前しかなかった。
月曜から日曜まで、朝食、服薬、通院、入浴、夜間見守り。義母の退院後一か月分、すべての枠に《絃葉》と入力されている。
オンライン家族会議で、夫の直臣が画面を共有した。
「これなら兄さんも姉さんも安心だろ」
「絃葉さんは家で仕事してるものね」
「嫁が看るのが一番、お母さんも気を使わないし」
絃葉は、発言者が六人いることを数えた。正月には「血族だけで旅行する」と置いていかれ、祖父の葬儀では「嫁は受付をして」と親族席から外された六人だった。
「確認ですが、これは私の同意を取った表ですか」
「家族の予定に同意も何もないだろ」
直臣は笑った。
絃葉は別の画面を共有した。三年前の家族チャットだった。
《絃葉は逆井家の人間じゃないから、相続や墓の話には入れない》
《法事の集合写真も遠慮してもらおう》
《嫁はいつ離婚するか分からない他人》
送信者の名が、会議に参加している六人ときれいに並んでいた。
義兄が咳払いする。
「昔の言葉尻を取るなよ。今は緊急事態だ」
「だから、血族の皆さんで助け合ってください」
絃葉は一週間前に別居し、直臣が母の介護を無断で引き受けたことを理由に、生活費と住居を完全に分けていた。在宅勤務の会社にも勤務場所変更を届け、翌月から別の県へ移る。
介護当番アプリには、担当者本人の承認がなければ予定を確定できない機能があった。直臣たちは知らず、絃葉の欄を勝手に埋めただけだった。
画面中央に、二つのボタンが表示される。
《すべて承認》
《すべて辞退》
「押したら母さんが困るぞ」
直臣が低い声で言う。
「私が困っていたとき、皆さんは家族ではないと言いました」
絃葉は《すべて辞退》を押した。
未承認になった二百十七件の予定は、設定された血縁者優先ルールに従い、自動で六人へ均等配分された。
画面の向こうで、六台の携帯が一斉に鳴った。