一枚目は曲がっていていい

エルクは、剣を置いた日に領地も爵位も失った。

代わりに渡された谷間の土地には、傾いた納屋と、口の欠けた小さなパン窯があった。戦場では百人を並べられた男も、パン生地を丸くすることだけはできなかった。

初日に彼が選んだ仕事は、窯口へ新しい扉を取り付けることだった。

古い扉は錆びて蝶番ごと落ちていた。エルクは倒木から板を切り、内側へ薄い鉄板を打ちつけた。釘は曲がり、取っ手は少し右へ寄った。従者だった少女ティナなら、きっと眉をひそめただろう。

ちょうどそう考えたとき、本人が谷へ降りてきた。

「やっぱり、ひどい出来ですね」

「帰ったのではなかったのか」

「帰る場所がなくなりました。あなたが辞めたせいで」

ティナは文句を言いながら、蝶番を押さえた。エルクが槌を振るう。最後の釘が入ると、扉はぎぎ、と鳴って閉じた。隙間から漏れていた光が一本に細くなる。

扉を何度開け閉めしても、板は石へ擦れなかった。戦支度なら次の仕事を探しただろうが、今日はそこで槌を置いた。

仕事はそこまでにした。

二人は持参した粉へ水を入れ、平たい生地を作った。ティナの一枚は丸く、エルクの一枚は盾のように角張った。窯へ並べて扉を閉じると、内側で薪が爆ぜる音だけがした。

待つ間、王都からの騎馬が来た。新しい将軍が北辺で敗れ、エルクへ軍旗を取り戻せと命じる手紙を置いていった。

「開けますか」

「腹が減っている」

「昔なら、食事を忘れて出陣しました」

「昔の話だ」

扉を開けると、熱が頬を包んだ。二枚のパンはどちらも膨らみ、エルクの角張った一枚だけ、端が少し焦げていた。

彼はそれを割った。湯気とともに、焼けた小麦と薪の香りが立つ。焦げた縁はぱりぱりし、中は驚くほど柔らかい。

ティナが一口食べ、真顔で言った。

「曲がっていますが、食べられます」

「なら、勝利だな」

王命の封は切られないまま、石の台で温められていた。エルクは軍旗ではなく、曲がったパンを半分に分けた。

初めて、自分の不格好な仕事が、誰も傷つけずに誰かを満たした。