七行より重い手紙
月のない夜だけ、川向こうの郵便局が開く。
死者へ出せる手紙は一人一通。便箋は七行まで。八行目を書けば、渡し舟が重さに耐えられず、手紙は朝までに差出人の枕元へ戻る。
セフィは、恋人ロアンを冬の落石で失った春、四十三頁の手紙を書いた。
どうして一人で山へ行ったの。
最後に喧嘩したことを後悔している。
あなたの青いカップを割れずにいる。
庭の杏が咲いた。
帰ってきて。
帰ってきて。
帰ってきて。
郵便局の老婆は束を量り、首を振った。
「重すぎるよ」
「切手を増やします」
「重いのは紙じゃない」
翌月、セフィは十頁に減らした。次は三頁。その次は十行。それでも毎朝、濡れた手紙が枕元に戻っていた。
「七行なのに、なぜ届かないの」
「返事を求める言葉は、一行で舟一艘ぶんになる」
セフィは怒り、老婆を嘘つきと呼んだ。死者から返事が来ないなら、郵便局など何のためにあるのかと責めた。
老婆は窓を閉めながら答えた。
「生きている者が、返事を待つのをやめるためさ」
一年が過ぎた。
杏は実をつけ、ロアンの青いカップは棚の奥で埃をかぶった。セフィは村の学校で働き始め、子どもたちに文字を教えた。笑うたび罪悪感があり、夕食がおいしいたび彼を置き去りにした気がした。
二度目の春、セフィは一枚の便箋を持って郵便局へ行った。
〈ロアンへ。
あなたがいない朝にも、杏は咲きました。
私は泣きながら、その花をきれいだと思いました。
それを謝るのは、今日で終わりにします。
あなたを忘れずに、あなたのいない日を生きます。
愛していました。
さようなら。〉
老婆は数えた。
「七行だね」
手紙は黒い川を渡った。
翌朝、枕元には何もなかった。
届いた証拠も、読まれた証拠も、返事もない。ただ、何度も戻ってきた濡れた跡だけが、木の床に薄く残っていた。
セフィは青いカップを洗い、杏の枝を一輪挿した。
最初の四十三頁は、最後までロアンへ届かなかった。
けれどあれはきっと、彼を呼び戻すための手紙ではなかった。
彼のいない世界へ、自分が戻る道を探すための長い迷子札だったのだ。