三秒だけ曲がらない膝
「二つの物を三秒くっつける? 糊より短い。外れだ」
武闘都市の職能審査で、トアは職人席からも笑われた。
《スキル:仮止め――接触している二つの物を三秒間だけ固定する》
釘を打つ間にも足りず、四秒目には何の跡もなく離れる。戦士登録を拒まれたトアは、闘技場の修繕係として床板を運ばされた。
トアは板を張るたび、三秒の使い道を試した。釘を打つには短い。だが重い板がずれる瞬間を止めれば、一人でも正確に組める。力を生む能力ではない。ただ、動くはずのものが動けない三秒間、加わった力がどこへ逃げるのかを、彼は壊れた蝶番から学んでいた。三秒は短い。だからこそ、相手が全力をかけた瞬間だけ借りればよかった。
その夜、地底門を破って鉄殻巨人が現れた。
身長は城楼ほど。何枚もの装甲板が重なり、剣も槍も継ぎ目で滑る。都市最強の剣鬼ラザーンが膝へ大剣を叩き込んでも、板がしなって衝撃を逃がした。
「総員退避! 門を放棄する!」
巨人が一歩踏み出すたび、石畳が波打つ。
トアには、修繕係として油を差した構造が見えていた。装甲板は壊れないのではない。互いに滑るから、力を受け流せるのだ。
彼は巨人の足元へ潜り、脛板と膝板が重なった瞬間に掌を当てた。
「《仮止め》」
二枚が三秒だけ、一枚の板になった。
巨人は構わず膝を曲げる。曲がるはずの継ぎ目が曲がらず、上半身の重量だけが進む。鈍い音がして、固定された板の外側から留め具が弾けた。
三秒後、仮止めは解けた。だが砕けた留め具までは戻らない。
巨人が反対の脚を出す。トアはそこにも触れた。足首と石畳を三秒、踵と脛を三秒。止めるのではなく、動こうとする力を巨人自身の装甲へ返していく。
七歩目で両膝が逆向きに折れ、鉄殻巨人は前のめりに倒れた。
露出した首の炉心へ、ラザーンの大剣が突き立つ。
蒸気が晴れると、剣鬼は勝鬨を上げず、油まみれのトアへ大剣を差し出した。
「俺の一撃では倒せなかった。お前の三秒が七度、こいつを壊した。明日から俺の隣に立て。外れと判定した連中には、俺が説明する」