三脚の燭台

瑯州城の楼閣には、脚が三本しかない青銅の燭台があった。

一本欠けたのではない。最初から三本だ。皿の背面は鏡のように磨かれ、一つの炎を三つの窓へ映す。城下から見れば、楼閣に三人の将が立っているように影が動く。

工匠の韓詢は、その燭台を降伏の席へ運んだ。

敵の軍師・白匡は、城内に将が何人残っているかを知りたがっていた。援軍が来たという噂を信じれば総攻めを延ばす。嘘と見抜けば夜明け前に梯子を掛ける。

広間には韓詢と城代だけが座り、障子の向こうには兵の影が三つ揺れていた。実際には、燭台の炎一つで作った影だった。

白匡は茶を飲まず、窓を見た。

「影は三つ、足音は二つだ」

「疲れた将は歩かぬ」

「援軍の大将が客人へ顔も出さぬか」

韓詢は燭台の芯を切った。炎が低くなると、三つの影も同時に肩を落とした。人なら揃いすぎる動きだった。白匡の視線が燭台へ移る。

見抜かれた。

城代の手が刀へ伸びる。ここで白匡を斬っても、敵は朝を待たない。韓詢は燭台を持ち上げ、わざと傾けた。青銅の底から、乾いた血が一筋流れた。

「今朝まで、この席に三人いた」

白匡は影を見直した。

「死者を立たせていたのか」

「城を守るのに、生きている必要はない」

それは半分だけ真実だった。二人の将は昼の砲撃で死に、遺体は北楼に座らせてある。敵の物見は、まだ彼らが指揮していると思っている。

白匡が欲しいのは真偽ではない。自分の判断で兵を失わない理由だ。死者を将として数える城は、夜襲で何をするか分からない。その不確かさだけを、韓詢は売った。

「明朝まで攻めぬ。その代わり、日の出に東門を開け」

城代が頷いた。

白匡が去ると、韓詢は燭台の裏板を外した。そこには城内の抜け道を示す細い刻みがあり、最後の線だけ南へ曲がっている。三脚を地図の三叉路へ重ねれば、民の通る道が決まる。

北楼では、死んだ二人の将が朝まで敵を睨む。

韓詢が炎を吹き消すと、三つの影が同時に消えた。

その暗闇を合図に、瑯州城の南水門が開いた。