上の段から三回

 親同士が再婚し、同い年の二人は二段ベッドを与えられた。

 上の段を取ったのは、先に階段をつかんだ子。

 下の段になった子は、翌朝まで口をきかなかった。

「きょうだいなんだから仲良くしなさい」

 大人は簡単に言った。

 二人にとっては、昨日まで他人だった相手である。歯磨き粉の押し方も、目覚ましの音も、電気を消す時刻も違った。

 ベッドの柱へ線を引き、上を〈空〉、下を〈地上〉と名づけた。越境した靴下は没収。勝手に菓子を食べた場合は永久追放。

 ある夜、階下から親たちの声が聞こえた。

「やっぱり、急ぎすぎたのかもしれない」

「子どもたちが苦しいなら、別々に戻ることも考えよう」

 上の段にいた子だけが聞いた。

 黙っていれば、自分の部屋が戻る。朝の洗面所も、母を取られたような気持ちも、全部なくなるかもしれない。

 けれど下を見ると、布団から片足だけ出して眠る相手がいた。暑がりなのに毛布を蹴ると風邪をひく。昨日まで知らなかった、今は知っている弱点だった。

 上の段から、床板を三回叩いた。

 眠れない夜の合図として、二人が勝手に決めた回数だ。

 下から二回返った。〈起きてる〉

「親たち、別れるかも」

 小声で伝えると、下の子はしばらく黙った。

「それ、困る?」

「部屋は広くなる」

「質問の答えになってない」

「そっちは?」

「歯磨き粉は真ん中から押されなくなる」

 二人は暗闇で考えた。

「家族になれてないから、別れるって変じゃない?」

「なれてない途中なのにね」

 翌朝、食卓へ紙を置いた。

〈仲良くはないです〉

〈でも、解散は頼んでいません〉

〈三か月後にもう一度聞いてください〉

 親たちは泣き笑いの顔になった。

 三か月後も、二人はよく喧嘩した。ただし上の段から三回鳴ると、下から必ず返事が来た。

 学校で「本当のきょうだいじゃない」と言われた日、二人は顔を見合わせた。

「本当って何」

「夜中の合図を知ってるかどうかじゃない?」

 帰宅すると、二段ベッドの境界線を一本だけ消した。

 仲良しの証明ではない。

 逃げ出さずに、まだ途中を続けるという印だった。