下山者は六名
【鷹伏高校山岳部・夏季合宿事故報告書】
入山者数 六名
顧問一名、部員五名
午後二時十分、獅子返峠付近で濃霧に遭遇。
部員を一本の補助ロープで連結し、下山を開始した。
午後四時四十六分、登山口へ到着。
点呼の結果、下山者六名。負傷者なし。
ただし、下山時の集合写真について、以下の問題が確認された。
写真には顧問と部員五名が写っている。
人数は入山時と一致するが、右端の男子生徒は本校指定と異なる旧型の制服を着用していた。
部員全員は、その男子を「副部長の磯永稔」と証言した。
顧問も、三年間指導している部員だと主張した。
しかし現行の部員名簿に磯永稔の名はない。
同姓同名の生徒は二十四年前、本校山岳部の合宿中に同じ峠で失踪している。当時十五歳。発見されていない。
写真の男子は、失踪時の生徒手帳に残る顔写真と一致した。
【保護者からの申し出】
午後九時二十二分、弓削田芹の母親より、娘が帰宅していないとの連絡あり。
学校側は弓削田芹という在籍生徒を確認できなかった。
担任、同級生、山岳部員の全員が、その名を知らないと回答。
ところが入山前、校門で撮影された集合写真には、顧問と部員五名のほか、弓削田芹と名札をつけた女子生徒が写っている。
その写真に磯永稔はいない。
入山届の原本は一部が湿っており、六人目の氏名だけが読めない。筆跡鑑定では、弓削田芹本人の署名とみられる。
【部員端末の記録】
下山翌日の午前零時三分、山岳部の連絡グループへ音声メッセージが届いた。
送信者 弓削田芹
位置情報 獅子返峠北側尾根
『霧の中でロープが切れました。みんなの声は聞こえるけど、追いつけません』
『登山口に着いたら人数を数えてください』
『六人いたら、その中の一人は私じゃない』
音声の背後では、誰かが古い校歌を歌っている。
下山した六名へ確認したところ、全員が同じ回答をした。
「磯永先輩が歌って、道を教えてくれた」
【追記】
午前一時十七分、弓削田芹の端末から最後の写真を受信。
霧の中に、補助ロープでつながれた五人の後ろ姿が写っている。
ロープの最後には誰もおらず、切れた端だけが地面を引きずっていた。
写真の説明文は一行だった。
〈そちらへ下りたのは、本当に六人だけですか〉