不在票のお返事
宅配員の野々宮響は、古い団地の四〇七号室へ三日続けて荷物を届けた。
呼び鈴を鳴らしても応答はない。初日に不在票を入れると、翌朝、その裏に鉛筆で返事が書かれていた。
〈たくはいのおじさんへ
おかあさんはねています。ぼくは七さいなので、ドアをあけたらだめです。りつ〉
響は時間を変えて訪ねたが、やはり誰も出ない。二枚目の不在票には、こう返ってきた。
〈おとうさんは、よるにかえってきます。
おかあさんは、だいどころのおおきいつめたいはこのなかです。
おきるとあばれるから、あけたらだめだそうです〉
響は管理人へ相談した。
管理人は、母親を最近見ていないが、父親なら深夜に荷物を運んでいたと言った。隣人は、数日前まで子どもの泣き声がしたが、昨夜から急に静かになったと付け加えた。警察へ連絡しようとすると、会社から四〇七号室の集荷依頼が入った。
〈荷姿 段ボール一個〉
〈品名 衣類〉
〈重量 四十三キログラム〉
〈要冷蔵〉
〈玄関前に出しておくため、呼び鈴不要〉
依頼者は父親だった。
響は集荷を保留し、もう一度四〇七号室へ向かった。郵便受けには新しい紙が挟まっていた。
〈おじさんへ
きょう、おとうさんがかえってきました。
おかあさんを、おばあちゃんのいえにおくるそうです。
あかいテープのはこをもっていってください〉
扉の内側で、小さな足音がした。
「りつ君、そこにいるのか」
しばらくして、紙が一枚出てきた。
〈ぼくは、いません〉
響は息を止めた。
子どもの字の下に、大人の筆圧で一文が書き足されている。
〈集荷時には、室内へ声をかけないでください〉
響は階段を下りながら警察へ通報した。
団地の裏へ回ると、四〇七号室のベランダに男が立っていた。男は響を見下ろし、電話を耳へ当てた。
会社用端末が鳴った。
集荷依頼の変更通知だった。
〈荷物 二個口〉
〈重量 四十三キログラム、二十二キログラム〉
〈品名 衣類、子供服〉
最後の備考欄には、こうあった。
〈二個とも中身が動く場合がありますが、開封しないでください〉