不採用通知の裏面
二十年前の不採用通知を、私はまだ持っていた。
有名な広告会社。最終面接まで進み、落ちた。その後は地元の書店に就職し、店長になったが、閉店が決まった今も「あの会社へ入っていれば」と考えることがある。
閉店作業で古い書類をコピーしていたとき、通知を倍率二百パーセントで写してしまった。
排紙口から出た紙の裏に、知らないオフィスが映っていた。
そこに、広告会社へ採用された私がいた。
洒落た服を着て、大きな画面の前で部下を叱っている。壁には受賞作が並び、机には海外支社の辞令があった。
思い描いた成功そのものだった。
だが、引き出しに同じ不採用通知はない代わりに、妹からの葉書が束になっていた。
「今度はいつ帰る?」
「お父さん、店の階段がつらそう」
「手術の日だけでも来られない?」
最後の一枚は白紙だった。
私の世界では、妹は病気のあいだ毎週書店へ来た。閉店後の児童書売り場で二人きりになり、幼い頃のように本を読み合った。彼女の最後の一年を、私はほとんど知っている。
向こうの私は、受賞式の写真を見つめながら、知らないままだった。
紙の中の私が顔を上げた。
こちらの棚にある、妹が選んだ絵本へ目を留めた。羨ましそうに口元が歪んだ。
私は通知をコピー機から引き抜いた。
オフィスは消え、ただの白い裏面に戻った。
翌日、閉店セールのポスターを書いた。
昔なら恥ずかしくて使えなかった大げさな言葉を、一行だけ入れた。
「この町で最後の一冊に出会う日」
評判になり、予想以上の客が来た。
閉店は変わらない。私の仕事もなくなる。
それでも最終日、妹が好きだった絵本を買った子どもが、出口で振り返り「またどこかで本屋さんしてね」と言った。
私は不採用通知を捨てず、裏に新しい店の案を書いた。
小さな移動書店。広告の賞など取れそうにない名前だった。
選ばれなかった人生が白紙なら、今から書ける余白も、同じだけ残っていた。
半年後、古い配送車に棚を積み、病院や団地を回り始めた。最初の客は、妹と同じ病室にいた人だった。「あの子、あなたの選ぶ本を自慢してた」と教えられ、私は売上帳の上でしばらく泣いた。
車体に書いた店名は、あのポスターと同じ少し大げさな言葉だ。信号待ちで映る文字を見るたび、不採用だった自分が、ようやく別の仕事へ採用された気がした。