乾燥機が止まっても

 国見冬悟と片瀬航平は、月に一度、同じコインランドリーで会う。

 二人とも高校の同級生で、今は近所に住んでいる。示し合わせたわけではない。毛布を洗う日が、なぜかだいたい重なるのだ。

 土曜の夜、冬悟が大きな洗濯袋を抱えて入ると、航平はすでに乾燥機の前へ座っていた。

「また毛布?」

「猫もいないのに毛が多い」

「それ、たぶん自分の髪」

「認めたくない」

 冬悟は隣の機械へ毛布を押し込み、硬貨を入れた。

 洗濯機が回り始める。

 窓の丸い硝子の向こうで、青い毛布が水を吸って重くなる。二人は自動販売機で缶ココアを買い、プラスチックの椅子へ並んだ。

「最近どう」

「最近だね」

「そうじゃなくて」

「質問が広すぎる」

 航平は缶を掌で転がした。

 話したのは、近所のスーパーがレジ袋をまた変えたこと。高校時代の担任が、町内会の防災訓練で拡声器を握っていたこと。航平が買った観葉植物に、勝手に〈部長〉と名づけたこと。

「部長、元気?」

「葉が一枚落ちた」

「人事異動だな」

「窓際から棚へ」

 洗濯が終わり、乾燥機へ移す。

 温風が回り始めると、店内へ洗剤と布の湿った匂いが広がった。

 航平の乾燥機は残り五分。冬悟の方は二十五分。

「先帰る?」

「別に」

「終わってるのに」

「ココアが残ってる」

 航平は缶の底を振った。ほとんど音はしなかった。

 五分後、機械が止まった。

 航平は扉を開けず、まだ座っていた。

 冬悟は、航平が先週、長く付き合った相手と別れたことを共通の友人から聞いていた。航平は話さない。冬悟も知らないふりをした。

「部長の葉、挿し木できる種類?」

「調べてない」

「今度持ってこいよ」

「ランドリーに?」

「ここ、日当たり悪いけど」

「部長を洗う気か」

 二人で笑った。

 冬悟の乾燥機も止まった。

 扉を開けると、温かな空気が顔へ当たる。毛布はふくらみ、石鹸の匂いを抱えていた。

 航平も自分の毛布を取り出し、二人で畳む。角を合わせても、途中でずれる。

「家でやればよかった」

「ここでやるから、月一で会うんだろ」

 外は冷えていた。

 二人は温かな毛布を胸へ抱え、途中の角まで一緒に歩いた。缶ココアの甘さはもう消えていたが、腕の中には乾燥機の熱が長く残った。

 話さなかったことも、同じ夜の中で静かに乾いていた。