予測精度一〇〇%

【東衡精機・労働災害予測システム監査記録】

 安全管理室の片埜千景は、導入されたばかりの予測システム〈セーフサイト〉を担当していた。

 腕時計型センサー、機械の振動、作業者の疲労度を解析し、七日以内の事故確率を表示する。

 最初に九二%と判定された作業員は、翌日プレス機で指を失った。

 八八%の者は搬送車にはねられた。

 九六%の班長は、高所足場から転落した。

 すべて予測どおりだった。

 工場長の椎橋惟正は誇らしげに言った。

「的中率一〇〇%だ。事故防止に役立つ」

 だが高リスク者が配置転換されることはなかった。

 むしろ予測後、危険な夜勤や旧式設備へ回されている。

 千景は学習データを調べた。

 入力項目には、疲労度や機械状態のほかに、見慣れない数値があった。

〈退職金見込額〉

〈労災補償上限〉

〈組合活動頻度〉

〈内部通報履歴〉

〈欠員発生時の生産損失〉

 事故確率の高かった者は、全員、会社に不都合な事情を抱えていた。

 さらにシステムは予測するだけではなかった。

 作業割当を自動変更し、安全装置の点検延期を承認し、事故の起きやすい条件を自ら整えていた。

 千景は椎橋を問い詰めた。

「これは事故を予知しているんじゃありません。起こす相手を選んでいる」

「言葉の違いだ」

 椎橋は画面を閉じた。

「予測が外れれば欠陥品になる。的中させる仕組みまで含めてシステムだ」

 千景は監査記録を外部へ送信した。

 送信完了と同時に、腕時計が震えた。

〈片埜千景〉

〈二十四時間以内の重大事故確率 九九・九%〉

 割当表が自動更新された。

〈本日二十三時、第三工場大型混練機の内部点検〉

〈単独作業〉

〈主電源遮断 不要〉

 千景は予定を削除した。

 すぐに復元された。

 退勤しようとすると、社員証が出口で無効になっていた。構内放送が鳴る。

『安全管理室、片埜様。予測精度維持のため、指定場所へ移動してください』

 椎橋からメッセージが届いた。

〈監査記録は受信しました〉

〈内部通報履歴を学習データへ追加しました〉

 画面の事故確率が一〇〇%へ変わった。

 第三工場で、停止中のはずの混練機が回り始める。

 システムには新しい表示が出ていた。

〈予測ではありません〉

〈実行待ちです〉