予約は二十二時まで
日曜の二十一時十二分、亜湖のスマホに、レストランから確認メールが届いた。
〈仮押さえは本日二十二時までです〉
来月、友人の誕生日を祝うための店だった。駅から近く、個室があり、デザートに文字も入れられる。グループチャットには昼過ぎに候補を三つ送り、最後に〈ここなら押さえられるよ。どう?〉と書いた。七時間たっても、三人全員が未読だった。
亜湖はローテーブルの上にノートパソコンを開き、店のページとチャットを交互に見た。あと四十八分。誰か一人でも丸いスタンプを押せば予約できる。押されなければ、席はほかの誰かに渡る。
夕飯の海鮮丼は、半分残っていた。酢飯が冷蔵庫の冷気を吸い、刺身の端が少し乾いている。昼に買ったレシートには、予定より高かったケーキ屋の下見代まで並んでいた。自分が祝われるわけでもないのに、どうしてここまで準備しているのだろう、と考えた自分を、亜湖はすぐに意地悪だと思った。
昔から、四人で何かを決めるときは亜湖が検索し、表にし、締切を伝えた。得意だからやっているつもりだった。けれど、得意な人にも、返事を待つ時間は発生する。
二十一時三十六分。チャットは静かなままだった。
亜湖は〈とりあえず予約しとくね〉と打った。キャンセル料は三日前から。誰も反対しないなら進めてしまえばいい。いつもの流れだった。
そのとき、キッチンタイマーが鳴った。明日の朝用にゆでていた卵のことを忘れていた。火を止め、冷水に移す。殻の表面を転がる水を見ていると、二十二時という数字が、人生の分岐ではなく、ただ一つの店の期限に戻った。
亜湖は入力文を消し、仮押さえを解除した。
グループには〈今日は返事なさそうだから、いったん手放したよ。また決めよう〉とだけ送った。もちろん、それにも既読はつかない。
海鮮丼の残りに醤油を足す。席がなくなっても、誕生日はなくならない。今夜ひとりで四人分を決めないことも、祝う気持ちの不足ではない。
二十二時を待たずにパソコンを閉じた亜湖は、冷えた酢飯をゆっくり食べた。