予約投稿
筒石秋臣の姉、芽依子は、家族の日常を投稿することで三十万人のフォロワーを得ていた。
母が病気で亡くなったとき、泣き顔の写真と長文の追悼投稿が十万件の「いいね」を集めた。それから姉は、父の通院も秋臣の失恋も、何でも動画にした。
「悲しいことほど、誰かの励みになるから」
そう言って、広告収入の画面を見せた。
ある夜、芽依子から、予約投稿の誤字を直してほしいと頼まれた。企業案件が重なり、管理画面を開く暇がないらしい。
秋臣が共有パソコンへログインすると、翌朝六時公開の投稿があった。
〈大切な父が、昨夜、亡くなりました〉
〈入浴中の急な心臓発作でした〉
〈まだ現実を受け止められません〉
黒い服で涙を拭う芽依子の写真まで添えられている。
だが父は今、浴室で風呂に入っていた。
予約時刻は九時間後。
文章の末尾には、葬儀サービスの広告と割引コードが入っていた。
秋臣は悪趣味な下書きだと思い、削除しようとした。
そのとき浴室から、何かが倒れる音がした。
「父さん?」
廊下へ出ると、浴室の扉には外側から補助錠が掛けられていた。中では水が流れ続けている。
鍵を外そうとした秋臣のスマートフォンへ、芽依子からメッセージが届いた。
〈管理画面、見た?〉
「何をした」
〈薬を飲む時間を少し変えただけ〉
〈投稿が先だと不自然でしょう〉
秋臣は警察へ電話をかけた。
だが電波が切れ、通話できない。自宅のWi-Fi設定も管理者権限で変更されていた。
パソコンの管理画面に戻ると、別の予約投稿が目に入った。
公開予定日は一週間後。
〈父に続き、弟まで失いました〉
〈家族が私一人になっても、前を向いて生きます〉
添付された写真には、ソファで眠る昨夜の秋臣が写っていた。
撮影位置は、居間のカーテンの裏だった。
投稿予定時刻が、自動的に書き換わった。
一週間後から、二分後へ。
芽依子から最後のメッセージが来た。
〈順番を入れ替えるね〉
〈お父さんの投稿、誤字だけ直しておいて〉
背後でカーテンリングが一つずつ鳴った。