二十七歳の棚

玲奈のパソコンには、「二十七歳まで」という名前の表があった。

資格取得、昇進、貯金額、引っ越し。横には大学時代の友人五人の名前が並び、誰がどこまで進んだか、本人たちが話した内容だけで色分けしてある。緑は達成、黄色は途中、灰色は不明。玲奈自身の列だけ、白いセルが多かった。

表を作ったのは半年前だ。焦りを整理するためだったはずが、今では友人から連絡が来るたび更新していた。おめでとうと返したあと、緑のマスを一つ増やし、自分の白さを確かめる。

書店勤務の遅番を終えた夜、同期が店長試験に受かったとグループチャットに書いた。玲奈はバックヤードで祝福のスタンプを送り、ロッカーを閉めるより先に表を開いた。

「昇進」の行を緑にする。画面の右端に、自分の列が残る。店長試験の申込書は鞄に入っているが、受けたいのかどうか、玲奈にはまだ分からなかった。遅れているから受ける、という理由だけが日に日に大きくなっていた。

売り場の消灯確認に戻ると、棚に一冊だけ横倒しの本があった。玲奈はそれを起こし、背表紙を隣と揃える。棚は高さも厚さも違う本で埋まっているのに、順番さえ整えば不思議と落ち着いて見えた。

閉店間際、就職対策本を探していた客に棚を案内したとき、玲奈は自然に三冊の違いを説明できた。客は迷った末、いちばん薄い一冊を選んだ。「今の私には、これくらいが読めそうなので」と笑った。その言葉が、帰り支度をしても耳に残っていた。厚い本を選ばないことは、遅れではないのかもしれなかった。

事務室へ戻り、表をもう一度開く。玲奈は友人の緑を消さなかった。代わりに、一番左の「同年代平均」という列を選び、削除した。警告画面で少し迷い、それでも実行を押す。

白いセルは残ったままだった。ただ、何に比べて白いのかが消えた。

鞄から申込書を出す。今日中に書くつもりだったが、机の引き出しへ入れた。受けないと決めたわけではない。追いつくためだけに記入するのを、今夜はやめただけだ。

最後に表の自分の列へ、「今月読んだ本 三冊」と入力した。緑には塗らない。数字は黒いまま、棚の一冊のようにそこへ収まった。