二秒後の改札

機密書類の入った銀色のケースは、二秒で消えた。

駅の北改札を映すカメラには、灰色のコートを着た運搬員が十八時十分四秒に柱の陰へ入る姿が残っていた。隣のカメラでは、十八時十分六秒に同じ男が現れる。手には何もない。柱の裏は二台の死角で、ロッカーも扉もない。警備会社は、二秒の間に協力者へ渡したと考えた。

私は二つの映像を並べた。最初の画面では、ホームに停車中の列車の扉が開いている。二秒後のはずの画面では、列車接近の放送が流れ、線路は空だった。

「映像と音声は別系統です」

駅員は言った。同期がずれることはあるという。

もう一つ、柱の根元にいた鳩が気になった。最初の映像では右脚に白い糸が絡み、次の映像では何もない。同じ場所にいる、よく似た別の鳩だと説明された。

運搬員は、死角に入ったとき誰かにぶつかられたと証言した。気づけばケースがなく、怖くなって逃げたという。二秒では無理だが、彼の上着にも柱にも争った跡はない。

ケースは十キロ近くあり、片手で誰かへ投げ渡すこともできない。柱の周囲に残った映像を一コマずつ見ても、受け取る腕や足先は現れなかった。それでも警備会社は「二秒だから映らなかった」と結論づけ、運搬員の共犯者を探し始めていた。短すぎる時間が、かえって説明を省かせていた。

私は改札機の通過記録を確認した。運搬員の社員証は十八時十分五秒に一度だけ使われている。二台のカメラの時刻が正しければ、その一秒でケースを渡し、改札も抜けたことになる。

しかし映像ファイルの番号は連続していなかった。北側カメラは「火曜日」、南側カメラは「水曜日」の保存領域から切り出されている。表示時刻だけが同じなのは、毎日同じ時刻に同じ運搬員が通る定期便だったからだ。

火曜日、男はケースを持って柱へ入った。水曜日、同じ男は空手で柱から出た。その二場面をつなげれば、二秒の消失ができあがる。

私は火曜日の南側映像を開いた。柱から出てきた運搬員は、まだ銀色のケースを持っていた。盗難はその先、社用車へ向かう通路で起きている。そこを映すカメラの管理者だけが、二日分の映像を選べた。

銀色のケースは、二秒で消えたのではない。

二秒の前と後の間に、二十四時間が隠されていた。