五百皿の値札
王太子の婚約披露宴まで、あと三日。
宮廷から届いた注文は五百皿、代金は一皿銀貨三枚だった。食堂主は千五百枚の大仕事だと浮かれたが、穂澄だけは笑わなかった。
「計算もできない下働きが、祝いに水を差すな」
この食堂は、前回の王宮宴で見栄を張りすぎ、給仕十人の給金を二月も滞納していた。厨房では古い包丁を研ぎ直し、割れた皿を針金で留めて使っている。それでも料理長は「大口なら安くしても儲かる」と同じ失敗を繰り返そうとしていた。
穂澄が秤へ材料を置くたび、料理人たちは面白半分に覗き込んだ。肉の切れ端まで量り、炭籠の減りを一刻ごとに記し、給仕が五百皿を運ぶ歩数から必要人数を出す。数字が増えるほど笑い声は消えた。最後に割れ皿の箱を運び込むと、食堂主は初めて、宴の華やかな売上の下で何が失われていたかを見た。
料理長は彼女を厨房の隅へ追いやった。穂澄は前世で給食会社の原価担当だった。鍋には触れず、使う物を一皿分だけ秤へ載せた。
肉、銀貨一枚と銅貨二十枚。香辛料、銅貨四十枚。野菜、三十枚。炭、二十五枚。皿洗いと給仕の賃金、五十五枚。割れ皿の見込み、十枚。
合計、銀貨三枚と銅貨八十枚。
五百皿を三枚で売れば、売るほど四百枚の赤字になる。
料理長は炭や賃金を数えるなと言った。穂澄は先月の宴の箱を開けた。中には未払いの炭代と、逃げた給仕の給金請求が詰まっている。
食堂主の笑顔が凍った。
そこへ宮廷の注文官が催促に来た。穂澄は一皿銀貨四枚の見積書を差し出す。料理長が「高すぎて破談だ」と喚いたが、注文官は別の紙を広げた。
競合店の見積もりは四枚と銅貨二十枚。しかも運搬料は別だった。
「四枚で、運搬込みか」
「はい。五百皿で利益は百枚。急な雇い人にも、その日に払えます」
注文官は料理を一口味見し、肉の柔らかさではなく見積書の最下段を見た。
そして王家の印を押す。
「五百皿、正式に頼む。今後の宴もこの者に見積もらせよ」
食堂主は料理長から帳場の鍵を取り上げ、穂澄の掌へ落とした。