余ったカーテンフック

岳人は、母と透吾の新居へ、段ボールを運ぶためだけに来た。

二人が再婚して買った中古住宅は、郊外の坂の途中にあった。母は腰を痛め、階下で食器を包んでいる。二階のカーテンを任された岳人は、透吾と無言で脚立を往復した。

「その部屋は客間でいい」

岳人が言うと、透吾は巻尺を伸ばしたまま首を振った。

「佳澄さんは、岳人の部屋だと言ってた」

「俺、住まないですよ」

「今はな」

窓幅は百七十六センチ。買ってきたカーテンは百七十八センチ。二センチ余るだけなのに、透吾は裾を折り直すと言い張った。

「誰も見ない」

「寝る人は見る」

「客しか寝ない」

「だから、その客が見る」

透吾は裁縫ができず、岳人もできなかった。結局、二人で床に布を広げ、アイロン接着テープを使った。透吾が真っ直ぐ押さえられず、裾は少し波打った。岳人が笑うと、透吾も苦い顔で笑った。

脚立を交代するたび、透吾は必ず下から脚を押さえた。信用していないのではなく、落としたくないのだと、途中で分かった。

母が再婚を決めたとき、岳人は二十二だった。祝うには大人で、寂しがるには大人すぎる年齢だと思った。透吾に悪いところはなかった。それがかえって、距離の置き方を難しくした。

カーテンを掛けると、青灰色の布が西日をやわらかくした。フックが二個余った。透吾は捨てずに、小さな封筒へ入れた。

「予備?」

「お前、乱暴に開けそうだから」

「来ないって」

「来なくても壊れるものは壊れる」

透吾はクローゼットを開けた。中には何もないと思っていたが、岳人が学生時代に使っていたボストンバッグが置かれていた。母が勝手に持ってきたらしい。その横には、新しい枕と、畳んだ部屋着が一組あった。

「佳澄さんが入れた。俺は触ってない」

言い訳のように透吾は言った。

階下から母が二人を呼んだ。岳人は返事をせず、余ったフックの封筒に「この部屋」と書いた。透吾が見ていたが、何も言わなかった。

帰り際、岳人はカーテンを一度だけ強く引いた。波打った裾はほどけず、窓をきちんと覆った。

次に泊まる予定はない。それでも、窓の寸法だけは覚えておこうと思った。