保護者欄の増員
【小学五年・家庭環境調査票】
保護者氏名:
母の名前。
続柄:
母。
同居人:
母の再婚相手。
提出後、担任から「お父さん、と書いてもいいのよ」と言われた。
書かなかった。
本当の父は四年前に亡くなった。新しく家に来た人を父と呼べば、古い父が家族から押し出される気がした。
【小学六年・緊急連絡票】
第一連絡先:
母。
第二連絡先:
母の夫。
その人は紙を見ても何も言わなかった。ただ、私の忘れた水筒を学校まで届け、受付で「同居人です」と名乗ったらしい。
「そこまで正確に言わなくてもいいのに」
「書類どおりにした」
少し笑っていた。
【中学一年・進路希望調査】
相談相手:
特になし。
母と喧嘩して家を飛び出した夜、その人は追いかけてこなかった。公園のベンチで二時間待っても来ないので、余計に腹が立った。
帰宅すると、玄関の灯りだけがついていた。
「心配しなかったの」
「した。追えば、逃げる場所まで奪うと思った」
食卓には冷めたうどんが二つあった。
「母さんは?」
「怒りすぎたから、別室で反省中」
「あなたは何を反省するの」
「迎えに行くべきだったか、まだ迷ってる」
隣に座り、二人で冷たいうどんを食べた。
【中学三年・入学願書】
保護者氏名:
母の名前。
続柄:
母。
予備欄に、私はもう一人の名前を書いた。
続柄:
父、ではなく〈家族〉。
「これでいい?」
見せると、その人は長いこと黙った。
「亡くなったお父さんの場所を、取らなくていいんだよ」
「分かってる」
「無理に呼び方を変えなくても」
「分かってるって」
父は一人しか持てないと思っていた。けれど家族の席は、誰かが座れば誰かが消える椅子ではないらしい。
【高校一年・災害時引き取り人登録】
引き取り可能者:
母。
父。
家族。
私は〈父〉の横に、亡くなった父の名前を書いた。
〈家族〉の横に、毎朝弁当を詰め、雨の日に駅まで迎えに来て、私が戻るまで玄関を明るくしておく人の名前を書いた。
提出前、その人が赤ペンで小さく訂正した。
〈引き取り可能者〉ではなく、余白にこう足した。
〈どこへでも迎えに行きます〉
書類としては余計だった。
家族としては、それで十分だった。