充電は三分ずつ
児玉梢が郊外駅の待合室へ入ると、壁際のコンセントに一本の充電器が差さっていた。持ち主らしい女性は、スマートフォンの残量表示を見つめている。
運転見合わせは一時間を超え、梢の端末も二パーセントだった。画面には、駅前ホテルの予約用QRコードがある。消えれば、深夜料金をもう一度払うことになる。
「同じ端子なら、少し借りられますか」
「この連絡を送り終わるまで」
女性は訪問介護の制服を着ていた。明朝の担当者へ、利用者宅の鍵の変更を送らなければならないという。
「会社の連絡網でやることでは」
「そうです。でも止まるのは会社じゃなくて、朝六時に待ってる人なので」
梢は、善意で穴を埋め続ける働き方が嫌いだった。女性も嫌いだと言った。それでも今夜だけは送る。その線引きに、梢は納得しなかった。
待合室の時計は秒針だけが大きい。梢は充電器の根元を見てから言った。
「三分ずつにしませんか」
女性は一度だけ残量を確かめ、コードを抜いた。梢はホテルの画面を開き、三分後にスクリーンショットを保存した。今度は自分でコードを抜き、女性へ渡す。
コードを受け取るたび、女性は「次はそちら」と確認した。梢は親切で譲られるのが苦手なので、その律儀さには助かった。待合室の長椅子は冷たく、二人はコンセントの前にしゃがんだまま、発車案内の赤い文字が変わるのを見た。会話が途切れても気まずくはない。必要なのは共感ではなく、時計の針を見落とさない人がもう一人いることだった。女性は宛先と本文を入力してから機内モードにし、送信の瞬間だけ通信を戻した。
次の三分で梢は駅からホテルまでの地図を保存し、その次で女性は返信を受け取った。
「着いたそうです」
「予約、出せます」
喜び方まで違った。女性は人が待たずに済んだことに息を吐き、梢は余計な支払いを避けられたことを確かめた。
運転再開の放送が流れる。二人は同時に立ち、同時に充電器を見た。
どちらも先に取らなかったので、最後の三分も半分にした。