八代目のマル

 日名瀬侑芽の祖母は、飼い犬のマルが三十六歳だと信じている。

 白い小型犬で、祖母が若いころからずっと一緒らしい。犬としてはあり得ない年齢だが、祖母は認知症なので、家族は否定しなかった。

「本当は八代目」

 母は侑芽へだけ教えた。

 マルが死ぬたび、同じ犬種、同じ毛色の子犬を探し、首輪と名前を引き継がせた。祖母が悲しまないよう、家族全員で秘密にしてきたという。

 侑芽は少し怖いと思ったが、優しい嘘だとも思った。

 夏休み、物置で古い首輪を見つけた。

 木箱の中に七本あり、それぞれ〈マル一〉から〈マル七〉まで札がついている。八本目は、いまの犬が着けている。

 その隣に、子ども用の名札が入った箱があった。

〈侑芽一〉

〈侑芽二〉

〈侑芽三〉

〈侑芽四〉

 通園帽、乳歯を入れたケース、母子手帳、同じ名前の健康保険証。写真に写る女の子は、全員侑芽と同じ髪形をしているが、顔は少しずつ違っていた。

 自分の母子手帳を開く。

 出生欄だけ別の紙が貼られ、印刷された文字の下に、消した数字が透けていた。

「見つけちゃったのね」

 母が物置の入口に立っていた。

「この子たちは誰?」

「みんな侑芽よ」

「私は五人目なの?」

 母は、マルの首輪を替えるときと同じ穏やかな顔でうなずいた。

「おばあちゃんは、家族がいなくなることに耐えられないの。だから同じ名前の、よく似た子に来てもらうのよ」

「前の子たちは、どこへ行ったの」

「マルと同じ。役目が終わっただけ」

 その夜、祖母は侑芽の顔を長く見て言った。

「今度の侑芽は、前より長持ちしたねえ」

 母のスマートフォンに、児童養護施設からメールが届いていた。

〈面談候補児童の写真を送付します〉

〈ご希望の年齢、髪色に近い女児です〉

 添付された少女は、侑芽と同じ前髪に切りそろえられていた。

「どうして次の子を探してるの」

「高校を卒業したら、この家を出たいって言ったでしょう」

 母は物置の戸を閉め、外から鍵を掛けた。

「マルだって、勝手にいなくなったら困るもの」

 暗闇で、七本の首輪が触れ合った。

 隣の箱からは、四人分の子どもの歯が、乾いた音を立てて転がった。