八枚目のシャッター
結婚式の撮影は、幸福を取りこぼさない仕事だ。
少なくとも私は、そう思っていた。笑顔、涙、指輪、花束。決められた順に押さえれば、誰もが後で「いい式だった」と言える。
その日の花嫁は、式のあいだ一度も泣かなかった。
母親はもっと固かった。亡くなった父親の席だけが、祭壇の近くに空けてある。椅子には父親の蝶ネクタイと、使い古した眼鏡が置かれていた。私はそこを背景に入れないよう気を配った。空席は幸福の写真に似合わない。
披露宴が終わり、親族写真を撮った。
八枚目のシャッターを切った瞬間、フラッシュの光が白い幕のように会場へ張りつき、人々が動かなくなった。
私だけがカメラを下ろせた。
花嫁は笑顔のまま、右手を母親の背へ回していた。母親の手は、誰にも見えないようドレスの裾をつまんでいる。白い布の裏側には、青い糸で小さな文字が縫われていた。
「ちゃんと歩け」
亡くなった父親の字だと、打ち合わせで見た手紙から分かった。
母親はその一文に指を当て、口元だけで泣いていた。花嫁は気づいていない。けれど背に回した手は、偶然とは思えない場所をゆっくり撫でようとしていた。
新郎もまた、空席へ視線を向けかけていた。打ち合わせでは一度も会えなかった人へ、今から挨拶をするような目だった。
私は三脚をずらした。
空席が、家族の真ん中に入る位置まで。
時間が戻り、母親の指が裾から離れた。
「すみません、もう一枚だけ」
私が言うと、花嫁は少し不思議そうにした。それでも母親の肩を抱き寄せた。
九枚目には、空の椅子が写った。
誰も座っていないのに、花嫁も母親も、そこへわずかに体を寄せていた。
納品前、私はその写真を外そうか迷った。型通りなら、目をつぶった人も、料理の途中も、空席も除く。
けれど花嫁から最初に届いた返事は、その一枚についてだった。
「父がいない写真なのに、父まで写っているみたいです」
私は初めて、取りこぼさないことと、隠さないことは違うのだと知った。
以来、式場で八枚目を撮るたび、ほんの少しだけ構図を広くする。
幸福の外に見えるものほど、本当はその中心にいることがある。