出口を撮る者

廃道写真の掲示板「坑口倶楽部」で、旧真弓隧道のスレッドだけは投稿前に警告が出る。

《坑内から出口を撮影してはいけない》

二十八歳の風見鷹彦は、その警告をスクリーンショットしてから入った。週末だけ廃墟を撮る会社員で、怪談よりアクセス数を信じている。入口、煉瓦の継ぎ目、煤けた碍子。撮影対象はすべて坑内へ向け、出口は背中に置いた。

半分を過ぎると、前方に白い楕円が浮かんだ。反対側の出口だ。そこに人影が立っていた。

鷹彦は声をかけた。影は動かない。服の輪郭が自分とよく似ていたため、掲示板の連中が仕込んだ看板だと思った。

証拠を残そうと、彼は一度だけレンズを出口へ向け、シャッターを切った。

画面には出口だけが写り、人影は消えていた。しかし画像の人物検出枠が、何もない白い部分を囲んでいた。ラベルは《風見鷹彦》だった。

外へ出て振り返ると、入口は金網で完全に塞がれていた。南京錠には新しい行政封鎖票がつき、日付は三年前。自分がどこから出たのか分からなかったが、背後には国道があり、車も普通に走っていた。

帰宅後、写真をクラウドへ同期した。問題の一枚だけ、撮影時刻が翌日の午後六時十二分になっている。鷹彦は加工ミスだと思い、掲示板に投稿した。

数秒で返信がついた。

「出口側から撮った写真を、坑内から撮ったことにするな」

「この人、去年も同じ画像上げてなかった?」

「写ってるぞ。画面の手前」

拡大すると、写真の下端に指先が十本並んでいた。レンズのこちら側から、出口の光へしがみついているように見えた。

翌日午後六時十二分、玄関の顔認証ロックが解除された。

鷹彦はソファに座っていた。誰も廊下を歩く音はしない。スマートフォンの入室履歴だけが更新される。

《風見鷹彦さんが帰宅しました》

続いて写真アプリが、一年前の思い出を自動表示した。昨日撮ったはずの出口の写真だった。

人物欄には二人分の顔が登録されていた。

《風見鷹彦・室内》

《風見鷹彦・出口》