出生許可証は一枚
三門依都のもとへ出生許可証が届いたのは、申請から百四十二年後だった。
不老不死が全国民へ行き渡って以来、出生は抽選制になった。新しい一人を迎えるには、同じ世帯から一人が「有限化」を受け、再び老いて死ぬ契約を結ばなければならない。人口を増やさないための、簡潔で残酷な規則だった。
依都は妻と何度も話し合った。二人とも子どもを望んだが、どちらも相手を失いたくなかった。許可証の有効期限は三十日。二十九日目、母が訪ねてきた。
「私が有限になるよ」
母は三百八歳で、見た目は四十代だった。
「もう十分生きたもの」
「十分って、誰が決めるの」
「じゃあ、あなたたちは決められる?」
決められなかった。母は申請端末へ指を置いた。依都はその手を払い、自分の指を載せた。
妻が息を呑んだ。
「相談もせずに?」
「相談したら、あなたは止める」
「当たり前でしょう」
「だから私が決める。子どもを産むためじゃない。終わりのある人生を、自分で選ぶために」
処置の翌朝、依都の身体に変化はなかった。けれど端末には、推定余命八十四年と表示された。数字を見た途端、台所の湯気も、妻の寝癖も、急に借りものではなくなった。
妻は三か月、依都と口をきかなかった。やがて二人は、残り時間を数えるのをやめ、有限化した身体の記録を一緒につけた。最初に増えた染み、治るのが遅くなった切り傷、眠れば消えない疲れ。その全部を、失敗ではなく季節として残した。
一年後、娘が生まれた。娘は依都の目尻の皺を発見するたび、宝物のように指でなぞった。学校では、老化する親を持つ子は珍しく、娘は何度も「かわいそう」と言われた。
依都が六十代の顔になったころ、娘は尋ねた。
「お母さん、死ぬの怖い?」
「怖いよ」
「じゃあ、わたしが生まれなければよかった?」
依都は首を振った。
「あなたのために死ぬんじゃない。あなたと生きたから、終わるのが惜しくなったの」
八十四年目の誕生日、家族は大きなケーキを焼いた。ろうそくの火を吹き消す依都の手は震えていた。
不死者ばかりの部屋で、その震えだけが時間を持っていた。