刃こぼれを数える鍛冶師
黒獅子ギルドの鍛冶場で、ガドリクは毎晩、帰還した武器を黙って並べた。
刃こぼれ、柄の緩み、魔石の曇り。持ち主が眠っている間に直し、朝には何事もなかったように棚へ戻す。討伐記録へ名が載らない彼の貢献度は四%だった。
英雄ロシュは公開査定の日、その数字を槌で指した。
「鉄を叩くだけで英雄面か。俺の剣が強いのは、俺が強いからだ」
笑いが起きた。ガドリクはロシュの剣を見つめ、深い疲労亀裂を告げたが、聞かれなかった。鍛冶場は外部業者へ替えると決まり、彼は炉の火を落とした。
翌日、黒獅子は凱旋を飾るため、甲殻竜の討伐へ出た。広場には観客が集まり、ロシュは磨き上げた剣を掲げた。
最初の激突で、剣は鍔元から折れた。
盾の留め具が飛び、槍の穂先が回り、魔杖の石が濁る。外部業者は表面を磨いただけで、戦いの癖に合わせた歪みを取っていなかった。英雄班は武器を失い、甲殻竜の前で後退した。
観客の端にいたガドリクが、布包みを投げた。中には、廃棄予定だった訓練剣が入っていた。
「飾りじゃない。踏み込む前に、肩の力を抜け」
ロシュは屈辱に顔を歪めたが、従うしかない。訓練剣は折れず、班は辛うじて竜を退けた。
帰還後、ロシュは剣の破損を外部業者のせいにした。ガドリクは炉から私物の槌を取り、別の街へ向かおうとする。
そのとき、鍛冶場の管理核が過去の整備記録を解放した。壊れる前に交換された留め具、致命傷を防いだ刃の角度、持ち主ごとに変えられた重心。黒獅子の勝利は、夜ごと彼が消してきた故障の上に立っていた。
ギルド長が声を上ずらせた。
「専属鍛冶師として戻れ。待遇は上げる」
「専属では足りない。整備を軽んじる者へ、武器を渡さない権限が要る」
炉の上に光る文字が浮かんだ。
武器庫では、冒険者たちが自分の装備を初めて細部まで見た。柄の内側には持ち主ごとの握り癖を直す薄板があり、鎧の裏には古傷を避ける柔らかな継ぎ当てがある。どれもガドリクが名を残さず施したものだった。
彼は新しい整備規程を炉へ掛けた。危険な武器は英雄の物でも止める。整備時間を削る遠征は許可しない。
ロシュが抗議すると、折れた剣先が床で乾いた音を立てた。誰も彼へ同意しなかった。
《装備維持・真正査定》
旧評価 四% → 真値 九十三%
総合貢献順位 首位:ガドリク
役職更新 鍛冶場係 → 装備局長
英雄ロシュ → 武器貸与審査対象