利息は晩ごはん

「返済、三か月止まってる」

 妹が営む小さな修理店へ、兄は閉店直前に現れた。

 二年前、兄は離婚と失業が重なり、妹から八十万円を借りた。月二万円ずつ返す約束だった。

「来月まとめて払う」

「その台詞、先月も聞いた」

「金がないんだから仕方ないだろ」

「金がないことじゃなく、連絡がないことに怒ってる」

 兄は黙った。

 妹は帳簿を広げた。残額は四十二万円。その横に、兄から届かなかった月だけ空欄が並んでいる。

「お前、昔から金の話になると偉そうだよな」

「貸したから、兄さんの人生に口を出せると思ってない」

「じゃあ放っておけ」

「返せないなら返せないって言え。妹を債権者にしたまま、兄までいなくなるな」

 兄の肩から力が抜けた。

 子どものころ、家が貧しかった。電気が止まるたび、兄は妹を公園へ連れ出し、「今日は星を見る日」と言った。妹は長いあいだ、それを本当に特別な遊びだと思っていた。

「借金してる兄なんて、会いたくないだろ」

「借金だけ返して、兄を返さないつもり?」

 妹は新しい紙を出した。

〈返済額 収入に応じて毎月相談〉

〈連絡を絶った場合 晩ごはん一回〉

〈利息 なし〉

「飯が罰なのか」

「兄さん、うちに来ると必ず冷蔵庫を空にするから」

「それなら高利だな」

 兄は笑い、ようやく今月の収入を話した。返せるのは五千円だった。

「十分」

「少なすぎる」

「嘘の二万円より、本当の五千円」

 その日から、返済日は妹の店の定休日になった。

 兄は五千円だけの月も、三万円返せる月も来た。何も払えない月には、鍋を持参した。二人で食べながら、仕事や子どもの話をした。

 三年後、最後の一万円を渡した。

「これで終わり」

 妹は受領印を押し、紙を半分に破った。兄は立ち上がりかけた。

「どこ行くの」

「もう返済日じゃない」

「利息が残ってる」

「利息なしって書いたろ」

 妹は二人分の皿を出した。

「晩ごはんは、返済が終わっても続ける。これは契約じゃなくて家族だから」

 兄は財布をしまい、冷蔵庫を開けた。

「何もないぞ」

「債務者だった人が買ってきて」

「もう債務者じゃない」

「じゃあ兄として」

 借金はなくなった。

 金を借りる前より、二人はよく会うようになった。