副団長の一撃

篠倉トモエの背中を、副団長の槍が貫いた。

《ギルド内攻撃》

役職者だけが、同一ギルド員へダメージを与えられます。

「悪いな。宝箱は一人分だ」

副団長は槍を抜き、トモエを奈落へ蹴ろうとした。最終ボス《宝守》のHPは残り一。団長は戦闘不能。役職を持たない一般員は、仲間を攻撃できない。つまり副団長を止められる者はいない。

トモエは床を掴み、役職欄を開いた。

《副団長》

権限:ギルド内攻撃、戦闘指揮。

任命条件:団長が戦闘不能の場合、最も近い生存者へ暫定移譲。

団長はボスの足元で倒れている。最も近い生存者は、止めを刺そうと前へ出た副団長ではない。団長を庇って地面に伏せるトモエだった。

距離表示が一センチ差で更新される。

《暫定副団長:篠倉トモエ》

彼女は振り向き、短剣で裏切り者の槍の柄を切った。役職者になったため、攻撃判定が通る。

相手もまだ副団長表示だ。二人の攻撃が許可される。だがトモエは身体を狙わず、胸の役職章だけを刺した。

《役職装備の耐久値:0》

副団長の権限が消え、次の槍は彼女をすり抜けた。一般員の仲間たちが一斉に裏切り者を取り押さえる。

宝守はHP一のまま剣を下ろした。仲間同士で最後の一人になるまで殺し合うかを試すボスだったのだ。

トモエは宝箱を開けず、団長へ回復薬を使う。箱の蓋がひとりでに開き、中から人数分の役職章が現れた。

《宝守討伐失敗》

《同一ギルド員への致死攻撃を阻止》

役職章を失った裏切り者は、なおも「副団長命令だ」と叫んだ。だが声に権限表示はつかず、誰も動かない。

トモエは胸の傷を回復しながら、二つ並んだ暫定副団長の履歴を見た。一人は宝箱を独占するため役職を使い、一人はその役職を壊すため一度だけ使った。同じ権限でも、行使した目的までは同じにならない。

人数分の章には《攻撃権限なし/拒否権限あり》と刻まれていた。次の指揮者を止める力だけを、全員が一つずつ持つ仕組みだった。

《戦闘指揮権を全生存者へ分割――仲間を傷つけられる力を、一人だけの役職として保持する必要はありません》