十一番の洗濯物
宇賀神玄斗の部屋で給水管が外れたのは、午前一時だった。床を走る水から段ボールを救い出していると、管理会社より先に砂賀和央が来た。
「緊急連絡先、まだ俺の番号だった」
「変更するの忘れてただけだ」
二年前まで、二人は社会人フットサルの同じチームにいた。和央がライバル会社へ移籍した夜、玄斗はグループチャットから彼を外した。昇格戦の前だった。裏切りだと思ったし、今も完全には違うと言い切れない。
濡れた衣類を黒い袋へ詰め、二人は和央の車でコインランドリーへ運んだ。洗濯機を三台使っても、ユニフォームと仕事着と寝具が入りきらない。玄斗は濡れた十一番のシャツを見て、捨てる側へ置いた。
「それ、回せる」
「もう着ない」
「布は着るかどうかで洗うんじゃない」
和央は自分のジャケットを脱ぎ、残りの衣類と一緒に押し込んだ。洗剤を入れる手つきが妙に慣れている。移籍先の会社を半年で辞め、今は夜間配送をしていると、乾燥機の音に紛れて聞いた。玄斗も契約を切られたばかりだったが、それは言わなかった。
乾燥を待つ間、二人は自販機のコーンスープを飲んだ。和央は熱い缶を足首へ当て、古傷を温めた。玄斗は、昇格戦を欠場した本当の理由を聞きかけてやめた。聞けば、自分が正しかった時間まで崩れそうだった。
朝四時、乾いた衣類を畳む。和央は速く、玄斗は角を揃えた。十一番のシャツだけ、二人の間に残った。
水の止まった部屋は床を剥がすことになり、今夜から住めない。玄斗が始発まで駅で過ごすと言うと、和央は洗濯籠を車へ積んだ。
「うちの空き部屋、物置だけど」
「一晩だけだ」
「洗濯物が乾くまででいい」
和央の部屋に着くと、空き部屋の箪笥は一段だけ空けられた。玄斗が十一番のシャツを押し込もうとすると、和央は皺を伸ばして畳み直し、その段のいちばん上へ置いた。
玄関の靴箱には、玄斗の濡れたシューズが新聞紙を詰められて並んでいた。和央は出勤しながら、郵便受けの中に合鍵があるとだけ告げた。玄斗は始発の時刻を検索せず、ゴミ収集日の表示を確かめた。