十二時の放送室
真夜中の校舎で、給食の牛乳だけが温かかった。
警備員が放送室の扉を開けると、床に教頭が倒れていた。机の上には破られた封筒があり、翌週の試験問題が消えている。壁時計は十二時を示し、窓の外は夜のように暗かった。
廊下の照明は落ちていた。遠くで机を一斉に引くような音がして、すぐ静まった。放送卓の脇には、飲みかけの牛乳と、銀色の薄い眼鏡が一つ置かれていた。警備員には用途が分からなかった。
校舎へ入れたのは、泊まり込みの警備員と、鍵を持つ教職員だけだった。理科担当は、夜十一時から自宅でオンライン講義をしていた。画面には本人の顔が映り続け、受講者も多い。国語担当は家族と旅行中。残る用務員は、零時の巡回記録を端末に残していた。
刑事は警備員の証言を繰り返した。
「十二時に、緊急放送のチャイムが鳴った」
「はい。短いベルが二度。そのあと教頭の声が途切れました」
教頭の袖には白い粉がつき、放送卓の下には理科準備室の鍵が落ちていた。理科担当は、日食観察用の器材を片づけ忘れたのだろうと説明した。試験問題の封筒にも同じ粉があったが、それが何かはすぐには分からなかった。
放送記録を調べると、機器が作動したのは確かだった。だが時刻欄には「12:03」とあるだけで、午前とも午後とも書かれていない。
牛乳の紙パックは冷蔵庫から出したばかりではなく、人肌に温まっていた。銀色の眼鏡には、太陽を見るなという注意書きがあった。刑事は校庭へ出て、百葉箱の下に同じ眼鏡が何十枚も落ちているのを見つけた。
その日の昼、学校では皆既日食の観察会が開かれていた。暗闇の中で鳴ったのは午前零時の警報ではない。給食開始を知らせる、正午の校内放送だった。
遠くの机の音は、教室で児童が一斉に立った音。理科担当のオンライン講義は、夜のものではなく録画配信だった。
刑事が再生停止を押すと、講師の顔は同じ瞬きからまた始まった。
十二時の放送室に忍び込んだ者は、夜の侵入者ではない。昼の暗闇を知っていた、観察会の責任者だった。