十二番レジのシャッター
ホームセンターの十二番レジは、資材売場にいちばん近い。
日比野織恵は、多少の失礼なら会計を終えてから忘れる主義だった。香坂礼寧は、忘れたふりをすると相手が覚えると言う。休憩室でその話になるたび、織恵は「接客向いてないよ」と笑い、礼寧は「向きすぎるのも危ない」と返した。
閉店二十分前、作業着の男が十二番に並んだ。織恵の名札を読み、下の名前を何度も呼んだ。会員アプリを出すふりで、画面には織恵の写真が表示されていた。店の制服で撮られ、知らないアカウントに載せられている。
「これ、君だよね。何時に上がるの」
織恵は商品のバーコードを読んだ。答えなければ終わる。合計金額を告げれば、この客もほかの客と同じになる。
隣のレジから礼寧が来た。
「十二番、閉めます」
「会計途中」
「だから閉める」
男は笑い、苦情を入れると言った。織恵は反射的に頭を下げかけた。礼寧がレジ横のシャッターへ手をかける。
そのとき男の画面に、駐輪場で撮られた写真が見えた。織恵の自転車だった。織恵は会計取消のキーを押し、礼寧と同時にシャッターを下ろした。金属板が二人の手の下で鳴った。
礼寧は客を言い負かさなかった。警備への内線番号を押し、織恵には現金トレーを持たせた。二人はサービスカウンターの内側へ入り、男のアカウント名と時刻を紙に書いた。織恵は一度、「大げさかな」と言った。礼寧は返事をせず、防犯カメラの保存依頼に織恵のメモを添えた。
礼寧は織恵の名札を裏返し、織恵は十二番レジの客待ち札を外した。閉めた理由が個人の弱さにされないよう、業務日誌には二人で「安全確認のため」と書いた。次の担当者の名札も、外から撮れない位置へ移した。
退勤時刻になっても、男は駐車場にいた。警備員が裏口へ案内する。礼寧は織恵の自転車の鍵を持ち、織恵は礼寧の重い工具バッグを持った。
翌日、十二番レジには「点検中」の札が出た。織恵はもう、失礼を全部忘れられるとは思っていない。礼寧も、すべて止められるとは言わない。
開店前、二人でシャッターを上げた。