千二百円の答え合わせ

水曜の午後九時半、由布子はカフェのレシートをテーブルへ置き、コンビニで買ったひじき煮の蓋を開けた。

カフェラテ二つ、二千四百円。マッチングアプリで知り合った人と、仕事帰りに一時間だけ会った。会計では相手がまとめて払い、由布子は千二百円を送金した。レシートは「よかったら」と渡されたので、なぜか受け取ってしまった。

会話は途切れなかった。相手は旅行の話をして、由布子は最近見た映画の話をした。笑った回数も、たぶん少なくない。別れ際には「また連絡します」と言われた。

けれど帰宅してから、その一時間が急に採点問題になった。

映画の説明は長すぎなかったか。相手が水を飲んだとき、話題を変えるべきだったか。仕事の愚痴を一つ言ったのは減点だったか。千二百円をすぐ送ったのは、可愛げがなかっただろうか。

アプリを開くと、メッセージ欄は静かなままだった。会ってから四十七分しかたっていない。分かっていても、画面を更新するたび、さっきの自分の価値まで読み込み直される気がした。化粧室で直した口紅まで、急に濃すぎたように思えた。帰り道で笑った場面さえ、少しずつ曖昧になった。

ひじき煮は冷たく、容器の隅に豆が二つ貼りついていた。由布子は箸で一つずつ剥がした。夕飯を作るつもりで買った鶏肉は冷蔵庫に入れたままだ。明日の期限シールが、透明な扉越しに見える。

レシートを裏返すと、店のアンケートへつながる二次元コードがあった。〈本日のご利用はいかがでしたか〉。五段階の丸が並んでいる。

由布子は少し笑った。店なら、席の狭さや飲み物の温度を五段階で答えられる。でも人と会った夜に、相手と自分へ同じことをする必要はない。

レシートを四つ折りにして財布へ入れた。捨てるほど悪い時間ではなかったし、保存するほど特別だったかは、まだ決めなくていい。

メッセージは来ていなかった。由布子はアプリを閉じ、残りのひじき煮を食べた。今日はカフェラテがおいしかった。それだけを答えにして、夜を終えてよかった。