午前六時のジョウロ会議
町内花壇の自動散水機が、真夏の朝に壊れた。
修理は三日後。天気予報は三日間すべて猛暑日。
午前六時、町内会長が花壇前へ行くと、すでに五人いた。
「正式な招集はしていませんが」
「花は招集してましたよ。全員、うなだれてる」
道具は、じょうろ一個だけだった。
そこで、各自が家から水を運べる物を持ち寄ることになった。
鍋、やかん、計量カップ、麦茶ポット、子どもの水鉄砲。豆腐屋は空のバケツを持ち、喫茶店主は氷抜きのピッチャーを持った。
「水鉄砲は禁止では?」
「根元に撃てば効率的です」
「花壇で戦争を始めないでください」
会長は区域を割り振った。
第一班、マリーゴールド。
第二班、サルビア。
第三班、名前の分からない紫。
第四班、通行人へ事情を説明して、笑われる係。
しかし鍋は重く、やかんは少なく、水鉄砲は子どもが自分の靴を濡らした。全員、すぐに汗だくになった。
そこへ、夜勤帰りの看護師が通りかかった。
「根元へゆっくり。葉にかけると、日が出てから傷むことがあります」
急きょ、技術顧問に就任。
さらに新聞配達員が、空になった配達かごへペットボトルを積んだ。散歩中の老人は、給水所と花壇の間に椅子を置き、疲れた人へ麦茶を配った。
午前七時、花壇の土はすべて濡れた。水鉄砲班だけは花より互いの背中を濡らしたため、会長から厳重注意を受けた。子どもたちは「葉ではなく根元を狙った結果です」と反論した。
会長が閉会を宣言しようとすると、子どもが言った。
「明日も機械、壊れてるよ」
全員、黙った。
翌朝は十二人。
三日目は二十七人。
修理業者が来たとき、花壇前には鍋とやかんの列ができていた。
「直ったら、皆さん来なくなりますね」
業者が言うと、会長は散水機を見つめた。
「では日曜だけ止めましょう」
それ以来、日曜の朝は〈手動散水日〉になった。
水やりが終わると、その場で朝食を食べ、近況を話す。独り暮らしの人が来なければ、誰かが様子を見に行く。
花壇を救うための臨時会議は、一度も正式開催されていない。
それでも議題は毎週続いている。
〈今週、町で少し乾いている人はいませんか〉