卒業写真の空席

中学校の同窓会で、幹事は古い卒業写真を受付に置いた。

三十人の顔が並び、最後列の端だけが不自然に空いている。

そこには本当は、転校した生徒がいた。

写真撮影の翌週に学校を去り、卒業名簿には載らなかった。

同級生たちは、その生徒の名を長く口にしなかった。

机へ悪口を書いたのが誰か、全員が少しずつ知っていたからだ。

酒が進み、誰かが写真の自分を指した。

「俺、髪多いな」

その瞬間、空席から声がした。

「そこじゃない。右から四番目」

皆が凍りついた。

写真の中で、いないはずの生徒が薄く現れた。

卒業写真は、自分の顔を指した人にだけ、消えた生徒の声を聞かせた。

一人ずつ、恐る恐る自分を指した。

「体育の靴、貸してくれたね」

「図書委員、代わってくれた」

「机の字を消してくれたの、知ってる」

責める言葉はなかった。

そのことが、かえって苦しかった。

最後まで写真へ近づかなかった男がいた。

当時、悪口を書き始めた本人だった。

皆が見ても、男は笑ってごまかした。

「酔ってるんだろ」

幹事が写真を片づけようとすると、男は奪うように自分の顔を指した。

空席の生徒はしばらく黙った。

やがて言った。

「一度だけ、止めてほしかった」

男はその場へ座り込んだ。

謝罪は三十年遅く、届ける住所も分からない。

空席の生徒は、それ以上何も言わなかった。

同窓会の翌週、幹事たちは転校先を調べた。

何人かをたどり、ようやく連絡先を見つけた。

手紙には、写真のことを書かなかった。

ただ、あの頃にしたこと、しなかったことを一人ずつ記した。

返事は短かった。

「覚えています。今は元気です。会うかどうかは、まだ決められません」

それで十分だと誰も言わなかった。

十分ではないからこそ、待つことにした。

翌年の同窓会にも、卒業写真を置いた。

空席はまた何もない白い壁に戻っていた。

皆は自分の顔を指さず、代わりに空席の前へ小さな椅子を一つ置いた。

数年後、扉が開き、一人の客が入ってきた。

名前を聞く前に分かった。

三十年前の写真より年を取り、笑い方だけが同じだった。

誰も先に謝らなかった。

まず椅子を引き、座る場所を空けた。

話はそこから始まった。