受入完了の一秒前

予約管理システムの検収会議で、蓬莱寺千景は下請け開発会社のプログラマーとして、発注元の鐘ヶ江プロジェクト責任者と向き合っていた。納期は六月三十日。受入試験が終われば、二千四百万円が支払われる。

鐘ヶ江は一枚の不具合一覧を机へ置いた。

「重大障害が残っている。検収は来月へ延ばす」

支払も一か月延びる。下請け会社は給与資金が尽きかけていた。

一覧の一番上には「予約確定時に二重登録」とある。発生時刻は六月三十日午後十一時五十九分五十九秒。千景はその一秒を見つめた。

システムの本番切替は七月一日午前零時。六月中に本番環境で障害が起きるはずがない。

鐘ヶ江は、試験環境の時刻だと説明した。千景は監査ログを開いた。不具合を登録した端末は本番管理用。ログインしたのは鐘ヶ江本人で、時刻設定を手動で一日前へ戻した記録がある。実際の操作時刻は七月二日午後四時十二分だった。

「納期後に作った障害を、納期前に見せています」

鐘ヶ江は仕様不足が原因だから時刻は本質ではないと言った。

千景は変更依頼書を示した。二重登録が起きる設定は、七月二日午後三時、鐘ヶ江の指示で「同時接続試験用」に追加されたものだった。追加作業は契約外。しかも変更依頼の承認欄には鐘ヶ江の電子署名がある。

発注元の経理部長は、検収を延ばせば値引き交渉もできると小声で言った。千景の上司は沈黙し、机の下で拳を握っていた。

千景は納品書の受領印を指した。六月三十日午後六時、発注元は「仕様適合確認済み」と押印している。

「一秒前に障害があったなら、六時間前のこの印は何を確認したんですか」

千景は二重登録を再現し、鐘ヶ江の追加設定を外すと障害が消えることも示した。発注元の試験担当者は、六月三十日の時点で全項目を合格にしたと証言した。検収延期の理由は技術ではなく、四半期の支払を翌期へ送ることだと、経理資料の注記にも残っていた。

決裁者が検収延期書への署名を止めた。作られた一秒は、二千四百万円の支払日を翌月へ運べなかった。