台所くずを金色の土へ
「残飯一桶を魔物の餌に変えるだけとは、ずいぶん小さな祝福だ」
穀務院の役人は、ミルナトを無能と判定した。
【技能:《餌ごしらえ》――食べられない生ごみ一容器を、魔物が安全に食べられる餌へ変える】
人の食料にはならず、一日に一桶だけ。彼は王都を追われ、辺境村の共同台所を任された。
村には、畑を荒らすとして捨てられた灰色スライムが三匹いた。ミルナトは彼らをモチ、フワ、ツブと呼び、野菜の皮や魚の骨を煮た桶へ技能を使った。スライムは嬉しそうに食べ、翌朝、腹の下へ黒い粒を残す。その粒を畑へ混ぜると、土はふかふかになった。
ミルナトは毎日一桶ずつ、捨てるものを餌にした。食堂の臭いは消え、鼠も減り、村の菜園だけが妙によく育った。
やがて王国全土を赤錆病が襲った。
麦の根が腐り、葉が夕方までに赤く枯れる病だった。穀務伯シェルダが検分に来たころ、周囲の村は種麦さえ失っていた。ところがミルナトの村だけは、青い穂が風に揺れている。
「どんな薬を使った」
「薬ではありません。三匹の食べたあとの土です」
役人たちは笑った。だが赤錆病の畑へ黒い粒を撒くと、翌朝には新しい白根が伸びた。スライムは餌から腐敗だけを食べ、土へ戻していたのだ。
その夜、避難民が千人届いた。台所には山のような皮、傷んだ芋、骨が積まれる。技能は一桶にしか使えない。役人は「やはり足りない」と言った。
ミルナトは村で一番大きな発酵槽を運ばせ、台所くずを全部入れた。
「これは桶ではない!」
「餌を入れて運ぶ容器です。僕らはずっと、これを大桶と呼んでいます」
《餌ごしらえ》。
発酵槽いっぱいの廃棄物が、甘い草の匂いへ変わった。三匹のスライムは池のように広がって食べ、翌朝、広場を埋めるほどの金色がかった黒土を残した。
その土は病んだ畑へ配られ、秋には辺境から王都へ麦が送られた。
シェルダは無能判の紙を、モチに食べさせた。
「国は麦を財産と数え、捨てた皮を数えなかった」
穀務伯はミルナトへ王国の穀倉印を渡す。
「今日から、何を捨てるかはおまえの許可を取れ。捨て物の中に、次の収穫がある」