司会者の十三

日比野翠は、配られた四を一方鏡の下の細い受渡口へ差し込み、そこに置かれていた「司会者・13」のカードを引き抜いた。

樺島征矢と鴻池玄真が同時に立ち上がる。

「それは名札だぞ!」

「数字のあるカードよ」

壁には一行だけが光っていた。

〈一度だけ、室内にいる他者とカードを交換せよ。終了時、最大数字のカードを持つ参加者を解放する〉

征矢は十一、玄真は八、翠は四。二人は翠を相手に選ばず、互いに交換するふりをして時間を潰し、四のまま脱落させるつもりだった。

だが一方鏡の向こうには司会者がいる。受渡口には、進行役の認証用カードが差してあった。翠が四を押し込むと、カードの厚みに押され、十三がこちら側へ滑り出た。

『返しなさい』

加工の外れた男の声が響く。声は鏡一枚ぶんしか離れておらず、換気口から流れる冷気も三人の側と同じ周期で揺れていた。

「交換は成立した。私の四はそちら、あなたの十三はこちら」

『私は参加者ではない』

「規則は、交換相手を参加者に限定していない。室内にいる他者」

『制御室は別室だ』

翠は受渡口の縁を指した。床も天井も一続きで、鏡は間仕切りにすぎない。さらに入室前の案内表示には、全体を「第六ゲーム室」と記してあった。

残り二分。征矢は翠から十三を奪おうとしたが、交換済みカードには透明なロック膜が降りている。玄真は司会者の四を取りに受渡口へ腕を入れたものの、向こう側から扉を閉められた。

『認証カードは勝敗札ではない』

「規則は勝敗札とも書いていない。最大数字のカード」

終了ベル。読取光が三人の手元を走る。

十一。八。十三。

〈勝者、日比野翠〉

首輪が外れ、一方鏡が透明になる。向こうでは、仮面を外した司会者が四の札を握っていた。

翠は十三を鏡へ掲げる。

「私たちに交換させて、安全な側から楽しみたかったんでしょう。でも『他者』と書いた時点で、あなたも盤上にいた」

出口が開く。司会者の認証を失った制御扉まで、同時に赤く点滅していた。